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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年04月16日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その10)

その10 「健康が一番」

 

 アメリカは自由の国であり、それはまた自己責任の国でもあることを意味する。このことを、最も端的に表しているものの一つであり、一方で、アメリカ人自身も問題意識を持っているものが医療保険かもしれない。以前、この紀行を読んだ方のなかから、「ソーシャルセキュリティナンバーのことが書かれていましたが、アメリカの保険制度はどうなっているのですか?」という質問や、「以前、私も海外生活を送っていたときは意地でも病気にはなるまいと頑張ったものですが、今となれば1度くらい医療機関を使っても良い経験だったかもしれません。」という感想が寄せられたことがある。そこで、今回は私の知る範囲でこのことに触れてみたい。

 

 ソーシャルセキュリティナンバーがIDの基本的なもので、滞在を始めてすぐに取得手続きをとったことは、以前この紀行にも書いた。直訳すると「社会保障番号」となるが、ナンバーと一緒に送られてきた説明を見る限り、その性格は日本の社会保険とは異なり、失業保険と厚生年金、それに老齢者医療保険を併せたようなものと理解している。受給資格はタックス納付金を納めることで得られる点数が一定以上たまる事で初めて得ることが出来る仕組みになっている。ここで日本人コミュニティ向けに出されている新聞に、海外支社勤務などで何年か滞在する日本人の多くが受給資格を得る前に帰国することになるので、いわゆる納付損になることを取り上げた記事を読んだことがある。

 

 このように、日本の国民保険や社会保険のように加入が義務付けられ、しかも加入した日からその適用が受けられるといった「互助」の概念にもとづく制度はアメリカにはない。つまり、治療代はあくまでも個人の責任とされている。重傷を負って救急車で運ばれた人が、集中治療室でクレジットカードを提示して初めて手術が始められたという、笑えないクレジット会社のコマーシャルを見たことがある。

 

 一方、自由競争のおかげで医療技術が発達し、医療レベルは世界一といわれているが、日本の医療点数制度のような医療価格の統制もないことから、医療費は青天井といわれている。したがって、大部分のアメリカ人は民間の保険に頼っていることになる。医療費が高いわけだから保険料も高く、自己負担額も多いという話である。

 


 日本から期限付で来るような場合は、日本で海外旅行傷害保険に加入しておくことが絶対である。アメリカに来てからは加入できないので出発前に必ず入っておく必要がある。(ビザを取得する際に最低額いくらの保険に加入していることという注意がなされる。)私の場合、経験者のアドバイスや数社の保険会社の内容を比較して、最も負担の少なかった東京海上の海外旅行傷害保険に大学生協を通じて加入した。なお、期間や加入者の構成、保証内容で保険額が保険会社ごとに異なるので、加入前に比較検討する事をお奨めすしたい。私の場合は家族数が多いので、それでも28万円くらいだったと記憶している。ちなみに、これは旅費の対象にならない。家族分はともかく、以上のような事情のなかで保険に入らずに海外に行くことは考えられないのに、出張旅費がそれを考慮していないのは絶対におかしい。

 


 これまで、幸いにも一番下の3歳の子供がジンマシンで小児科にかかったほかは、家族皆無事である。何とかこのまま無事に滞在期間を全うしたいと思っている。以下は、子供が小児科にかかったときのエピソードである。今後、同じ様に海外に滞在する人の少しでも役にたてば幸いである。

 


 ある夜の事であった。寝る間際になって、3歳の子が「かゆい、かゆい」と言い始めた。見ると小さな発疹があって、「ジンマシンか?」と思わせた。ひょっとして、夕飯に食べた鍋の鶏肉が少々痛んでいたのかもしれない。(ちなみに、海外のスーパー食品売り場の賞味期限はあてにならない。賞味期限表示すらないものも珍しくない。自分の目と鼻で確かめるのが大事である。)
 しかし、直前まで元気に遊んでいたし、発疹がでている範囲も小さかったので、日本から持参した軟膏を塗って、とりあえず様子をみることにした(ちなみに、私の妻は元看護婦である。こうゆう時は良かったといつも思う。)。小さい子供を持つ方は御存知の事と思うが、子供は寝るとまもなく体温が急に上がる。すると、発疹が全身に広がってたまらなく痒くなるのである。結局、一晩中寝れずにぐずる子供に付き合って、夫婦ともほとんど寝れない夜を過ごすことになる。

 


 翌朝、意を決して医者に連れて行くことにする。事前に、一通りの病状を説明する英語を調べておいたはずだが、いざとなると焦りと寝不足で頭が真っ白で全く自信がない。電話帳で調べるとYoshidaという日本名の小児科医が車で20分位はなれたところにいることが分かった。日本語が通じるにちがいないと電話してみた。
 「Yoshida Clinic, May I help you?」という英語に対して、焦っていた私は「日本語でいいですか?」と日本語で聞いていた。「えっ?,はい、ちょっとお待ち下さい」という返事があって、しばらく待たされた後に、女の人の声で「替わりました。どうしたんですか?」と続いた。私はほっとして、症状を伝えると、最初に「保険は何をお使いですか?」と聞かれた。東京海上の海外旅行傷害保険である旨を伝えると、
 「分かりました。では、午後3時に来てください」と言われた。そうなのである。医者は混んでいて、予約を事前にとることと、待たされることは必至なのである。

 


 日本語が使えることが分かったので、安心して指定された時間に行くと、医者の先生と奥さんらしき人は日本語なのだが、それ以外は英語であった。子供は、急に英語しか話さない知らない人に囲まれたので大泣きするので、看護婦の言うことも思うように聞き取れない。それでも、ようやっと昨夜からの症状と日本から持ってきた軟膏を塗ったことを伝えた。しばらく待っていると、温厚な感じの医者が来て、今度は同じことを日本語で伝えた。診察は、ものの5分くらいであった。薬の処方箋を書いて渡してくれ、それでおしまいだった。診察料はそれで700ドル余り、なんと日本円にして8万円くらいであった。帰りに「診察料は、こちらから直接東京海上に請求しておきますから」といわれた。後に、サンフランシスコの保険事務代行業者から何度か電話や手紙で手続き上の連絡が来たことから、こういったシステムはここでは発達しているのだろう。

 


 帰りに近くの薬局に寄って薬を買い求めた。保険の契約書を見せて、これが使えるかと尋ねたら、答えはノーだったので保険の範囲外だと思い、その場はクレジットカードで支払った。「一回3mlを服用する事」という薬剤師からの説明だったので、「どうやって3mlを計るんですか?」と、ビンについたいくつかの目盛りを指差して聞いたら、「Oh!」とか言って計量スポイトをくれた。親切な薬剤師ではあったが、この国では、聞かなければ答えてくれないのが常識なのである。

 


 後になって先の代行業者からの連絡で分かったのだが、購入した薬も保険の対象になるようである。薬局では、保険会社への直接請求をしていないという意味での「ノー」だったのだろう。こちらではノーだけでは分からないのだが。代行業者は、私のような不慣れな日本人の扱いに慣れていて、クレジットのレシートと薬に貼られたシール(医者の名前、処方の日付、薬の内容を示したもの)で、とりあえず東京海上に請求をしてみると言ってくれた。対象になるかもしれないと思うものは、とりあえず保険金請求のために必要な書類をもらっておくことが肝心である。

 

(つづく)

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