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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年03月23日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その8)

その8 「シリコンバレー経済ウォッチング(その2)」

 

 前回は、柄にも無く「ニューエコノミー」などと高尚な話から始めたのに、近所のスーパーや床屋の話など、高尚な経済学とは程遠いしょぼい話で終始したので、今回は少しは頑張って経済について論じてみたい。

 

 インフレなき経済成長というエコノミスト達が言うニューエコノミーは、何故実したのか。エコノミストの説明によると、
1)アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)による予防的利上げ措置の効果、
2)ドル高による輸入価格の押し下げ、
3)ITによる産業構造変化がその理由としてあげられている。

 

 予防的利上げ措置の効果については、企業の設備投資状況や消費動向などを詳しく分析しないと分からないが、ドル高による輸入価格の押し下げは、日常生活からでも感じることができる。

 

 一番分かりやすいのがガソリンの値段である。一般には、バレル当たり10ドル近い低水準で推移していた原油価格が昨年初以来3倍以上に高騰し、ガソリンの値上がりが市民生活を打撃しつつあるといわれている。10月以前の価格を知らないので、残念(?)ながら値上がりを実感することができない。現在の価格はレギュラーガソリンで1ガロン当たり1ドル80セントくらいである。1ガロンは3.785リットルだからリッター当たり55円くらいの計算になる。面白いのは、たとえ隣り合わせのガソリンスタンドで異なる値段をつけていても平気なのに、12月中旬にドル高に推移した途端、どの店も値段を下げたのである。
(もちろん、これには大統領選挙に絡んで連邦政府が備蓄開放を決めたことなども影響しているのであろうが消費者がこのようなことに敏感なのは事実である)

 

 家電など生活雑貨でも顕著に見受けられる。ルームランプやおもちゃなどは殆ど中国製である。衣料は、タイ、マレーシヤなどのアジア諸国製が多い。ドル高がこれらの値段を押し下げる効果があることは容易に想像できる。一方で、これは程度の差こそあれ日本と大きな違いがあるとは思えない。一番搾り(ビール)が1ドル足らずで買えることからしても、単にドル高だけが物価水準を押し下げているわけではないように思われる。

 

 エコノミスト達が理由として強調するのが、ITによる産業構造変化である。一般にITの設備投資は少なく、在庫の増加という心配があまりない。IT産業が好調なだけでなく、ITを利用する企業も生産性を高め、コストダウンを実現することができる。ひいては、人件費が上昇しても、値上げしなくてもやれるという状況が生まれるという説明である。

 

 確かにインターネットがもたらす影響は大きいかもしれない。もし本当にITが失業を無くし、所得を上昇させ、なお物価を下げる効果をもたらすとすれば、日本で騒いでいるように「IT革命」といっても良いかもしれない。しかし、これには幾つかの疑問が残る。

 

 私が感じている疑問あるいは矛盾は次のようなものである。
 ひとつは、生産性が本当に上がっているのかということである。Business Week誌によると、IT産業(コンピュータ関連機器、通信機器、半導体)とIT産業を除外したものとでは、IT産業の3部門で生産性が昨年 49%も上昇しているのに対し、ITを除いた製造業 (全体の生産高の 90%を占める)は、ほとんど横ばいが続いているのだそうである。これでは、ITの利用が生産性の向上を高めているとはいえないことになる。生産高でみれば、昨年全製造業では6.5%の伸びになっているのに、IT関連分野を除く製造業では1.8%しか伸びていないということだから、かつての自動車がそうであったように、単にITというリーディング産業が全体を引っ張っているに過ぎないのではないだろうかという疑問が生じるのである。

 

 ふたつめの矛盾は人の輸送である。インターネットの普及は人の行き来を増大させた。遠くの人間との容易に連絡がとれるようになることは、逆に遠くの人間と直接会って話をする用件を増やすことになるのは容易に想像できるところである。アメリカでは航空運賃を引き下げたことも手伝って、近年、航空機利用客が増え大幅に増便した。そのせいで空港は混乱し、就航時間が大幅に遅れたり欠航することが頻繁に起きている。特に、ユナイテッド航空などは利益率優先モードに入っているので欠航が多く、あてにならない状況らしい。

 

 三つ目は、エネルギー問題である。カリフォルニアでは、人口の急増や産業の急成長、そしてインターネットやコンピュータターミナル用電力需要の増加により深刻なエネルギー問題を抱えている。電力とガスを供給するPG&E社では、値上げに関して公聴会を開いて消費者の理解を得ようとしている。1月4日の株式市場では28%もPG&E社の株価が下がってしまった。クリスマス時期のクリスマスライト点燈の自粛と、その後の節電が呼びかけられているが、抜本的な解決策は見出されていない。(これについては、さらに深刻さを増している。17日にベイエリアの広い地域で電力不足による停電が起きてしまった。サンフランシスコでは幼い子供がエレベーターに閉じ込められたり、ある地域では信号も消えて渋滞がおきた。州知事は緊急宣言を出し、19日には対策のための特別立法を成立させた。)

 

 四つ目は、低所得者層の流出である。トータル(あるいは統計上の平均値)では所得は上がっているかもしれない。しかし、すべての職種の賃金が上がっているわけではないはずである。サービス価格が上昇しては物価水準を低く抑えられるはずがない。やはり、安い労働力が支えている部分が相当あるはずである。しかし、住宅費の高騰が低所得者層を直撃している。公務員など経済成長を直接的には享受できない層を含めて他地域への流出が起きている。

 

 2つ目以降はITとは直接的には関連性がないかもしれないが、要はITだけが経済を変えうるのではなく多くの要素が絡んでいる事を言いたいのである。そして、既に幾つかの危険要因を覗かせているように思われるのである。もっとも、アメリカは広い。サンベルトと呼ばれる南西部にハイテク産業が進出し人が多く移動しているという話を聞く。そこはシリコンバレーとはまた違った状況なのかもしれない。テキサスに行っている小滝先生に一度聞いてみたい。

 

 それにしても、アメリカ経済に比較して日本の状況はひどい。NHKニュースは受信できるのであるが、ろくな話題が出てこない。円安が続くと生活を直撃するんだよなあ。日本経済よ!円よ!頑張れ!(つづく)

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