• 日本語
  • 英語

城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年03月11日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その7)

その7 「シリコンバレー経済ウォッチング(その1)」

 

 アメリカは今、好景気記録の更新中ということである。普通、好景気が続くと人件費高などからインフレ(物価高)が誘発され、消費の低下など景気悪化のサイクルに向かい始めるとされている。(中学や高校で習った社会科を思い出してください。)しかし、アメリカではインフレなき経済成長を続けているらしく、エコノミストたちはこの不思議を「ニューエコノミー」と称している。

 


 素人なので難しい事は分からないし、ここでは「稼ぐ」という生産的経済活動をしていないので全体を把握することも出来ないが、目で見て、耳で聞くことができる範囲で、生活観のなかからシリコンバレー経済をウォッチングしてみたい。

 


 「ニューエコノミー」と称されるのは、1)失業率が低下し、2)所得が増加しているにもかかわらず、3)物価水準が低く推移し、4)好調な消費が維持されていることを指すらしい。
 シリコンバレーに来てみて最初に感じるのは、「NOW HIRING(求人募集)」の看板をやたらと見かけることである。あらゆる店舗に出されていて、看板のない店を探す方が難しいくらいである。確かに求人は相当に多そうである。

 


 あるハンバーグショップに入った時のことである。品が良く気の良い白人のおばあさんがカウンターで注文を受けていた。しかし、耳が遠いうえに注文をさばく要領が悪い(おかげで、私は大声で4回も注文を繰り返さなければならなかった!)(注1)。明らかに、今まで外で働いた経験がなさそうな感じである。その店舗内の求人広告を見ると最低時給が9ドルになっていた。ハンバーガーショップの時給は、職種的には最も低い部類であろう(注2)。それまでは学生アルバイトかラティーノ(今はヒスパニックとは呼ばないらしい)しか働いているのを見たことがない。日本だったらせいぜい5ドルくらいだろうか。9ドルとは結構高いので、外に出たこともないお婆さんも働く気になったのかもしれない。

 

 

 散髪に行った時のことである。床屋が日系人だったので色々と話しかけてくれた。その人の話によると、客にはコンピュータ関係のエンジニアやプログラマーなど、若い人で5年から7年くらい頑張れば、きっとミリオネイヤー(百万ドル以上の収入のある人)になれると夢見てこの地に来る人が多いらしい。興味深かったのは、その床屋が1ミリオンを日本円で1千万円相当と思い込んでいたことだ(注3)。「えっ、1ミリオンは約1億円でしょ」と言うと、「そんな1億円だなんて!若い人たちなんですよ1千万円でしょ」となかなか信じてもらえなかった。彼らの所得水準や生活観念からすれば1千万円でも充分過ぎるくらいに高額なのであろう(注4)。

 


 新聞の求人欄を見ると、職種内容の詳細が分からないので単純比較はできないが、ソフトウェアエンジニアやプログラマーは7万ドルから高いので10万ドルというのが並んでいる。(ちなみにアドミ、セクレタリは高くて4万ドル、マネージメントは最も高いので8万ドルくらい、所長やエキスパートセールスでやっと10万ドルプラス歩合である。)確かに、高い求人倍率を背景に給与水準は上がっているのかもしれない。一方、職種間の差も大きそうだ。

 


 シリコンバレーの超大物ベンチャーキャピタリストのジョン・ドーアは、シリコンバレーを評して「地球の歴史上、最も大量の富が合法的に作られる場所」と言ったそうだが、コンピュータ及び情報関係そしてインターネットが牽引役となって、プログラマーなど給与水準の上昇を含めて経済の好調さを維持し、時にIPO(株式公開)やM&A(会社買収・売却)で、そのうちの一部の人間が億万長者となっているというこの地域の姿が想像される。(ある統計によるとシリコンバレーでは平均して24時間ごとに64人のミリオネイヤーが誕生している計算になるというのを何かで読んだ記憶がある。)

 


 一方、住宅費を別にして、生活資材は日本に比べて確かに相当程度安い。例えば、この地域に多いスーパーのAlbertson'sに行くと、1個買うとおまけに1個はタダというのがいくつも並んでいる。しかも、ご丁寧にレシートには今日の買い物で何ドル節約したかというのまで分かるようになっている。牛肉、豚肉、鶏肉に野菜と果物に子供用のお菓子、私の毎晩の楽しみとなるワインを含めて、家族5人の4,5日分の食材を買って100ドルを超えることはまずない。妻は、「今日は20ドルも節約したわ」と、嬉々として今度は日本の1.5倍はする日系マーケットで買い込むので結局は変わらなくなってしまうのだが、これは我が家の特殊事情であって、物価は低い水準に抑えられていると言って良いと思う。

 


 クリスマス商戦、歳末商戦(こちらでは「アフタークリスマスセール」という)の時期、前年同期と比べても売上3%アップで推移しているとニュースで報じられていた。依然、旺盛な消費性向は衰えていないという感じである。

 


 ここまでを見ると、エコノミストがいう「ニューエコノミー」そのものである。しかし最近になって、個人的には「ニューエコノミー」と称されるような現象ではなく、バブル期の日本が「高騰しすぎた不動産価格」を背景としたように、アメリカでは「株価」をバックボーンとした非常に不安定なものに見える。そのことについては、次回に触れてみたい。(つづく)

 

 


城戸の脚注

 

1)小野さんの英語の問題じゃないのか?

 

2)最低賃金労働者は日本では国立大の教官です。ハイ。

 

3)このおっさん、うちの学生と変わらんぞ。

 

4)私にとっても高額ですが・・・。

ページトップへ