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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2004年04月15日
いい会社、悪い会社の見分け方、その1

 この4月から国立大学が独立行政法人化されました。国立大が私立大になったようなもんです。ですから、これまで経験してなかった大学の「経営」あるいは「経営力」というものが問われるようになりました。そこで、外部資金を調達するために産官学連携が重要になり、とくに産とのつながりをより密接にしようという動きがあります。大企業との包括提携とか、研究コンソーシアムとかね。また、従来の1対1の企業との共同研究も増えることになりそうです。


  私は、大学に職を得て早15年が経過し、これまで共同研究などで何十社という企業と御付き合いさせていただきました。自分で言うのもなんですが、たぶん、平均的な大学教授の10倍以上の経験があると思います。海千山千ってヤツですか。楽しいことや愉快なこと、気分を害したことや不愉快きわまりなかったこと、いろいろございます。そこで、これまでの経験から大学関係者の皆さんが痛い目に合わされぬよう、いい企業と悪い企業の見分け方など、こっそり御教えします。実例を挙げてね。ですから、くれぐれも企業の方はこの先を読まないでくださいね。

 

実例1.アホな会社
 企業からいただく奨学寄付金や共同研究費は、大学教官にとっては言ってみれば外部評価であるわけです。株式会社の株価のようなものです。ですから、優良研究室というのは外部からの研究費が潤沢で、研究活動も活発になるわけです。そしてその結果として成果も出る訳です。ですから、工学部という産業とのつながりが深い学部に在籍する研究者は、その研究能力を研究費の額で判断されてもいい場合があります。逆に、大学の研究者としては、企業側にその研究室の価値を正当に判断し研究費の額を決めて欲しいと常々感じております。

 この会社は6~7年前に有機ELの研究を始めたいと研究室を訪ねてこられました。有機EL素子の作製方法と評価法を教えて欲しいとのこと。私は常々国立大学の研究室は開かれるべきとの考えを持っているので、はいはい結構ですよと二つ返事で快く引き受けました。有機EL素子の作製にはその当時はまだまだノウハウは公開されておらず、うちの技術はそういう意味では極めて貴重だったと思いますよ。その会社の担当者が訪ねて来ていわく、他大学への技術移転はしません(当時、御本人は他大学の研究室で別のテーマで研究していた)、必要な材料代は支払う。あるいは社から持参する。

まず、この時点で言ってやりたかったですよね。

 

 お・ま・え・は・ア・ホ・か!

 

そうでしょう、寿司屋ですし食べるのに、誰が材料代だけで食わせてくれますか?(そんなとこあったらこっそり教えてくれ。)寿司屋では職人の技術という形のないものに対して、私たちは何万円も払うわけでしょ。(何万円て、こんな高いとここめったに行かんけど)大学の研究室も一緒です。材料代だけ払って、血と汗と涙の結晶を盗んでいこうとする会社、来なくていいです。結局、来年度には予算を組んでそれなりの寄付をするからということで受け入れたんですけどね。一週間ほど滞在し、当時持っていた素子化に関するノウハウをすべて持っていきましたよ。その時付いたあだ名が、XXX社のスパイ。学生が言うにはこそこそと試薬名なんかを手帳にメモッていたそのその様がいかにもスパイのようであったとのこと。結局、この会社からは翌年何も連絡なかったし、もともと在籍するその他大学の研究室に技術移転して向こうで研究を始めた。こいつサイテー。私は他大学の先生に頼まれれば、喜んで技術移転の御手伝いさせていただきます。学生さんを研修で受け入れてます。その方がこの分野のためになるし、大学間では御互い様という面もありますからね。けど、最初に技術移転しないうんぬんを言っておいて、そんなことやるとムカツク訳です。結局、それ以降この会社からファックスなんかで有機ELに関する質問があっても完全無視したし、もちろん研究室への出入りは禁止。

 この会社のように、まず担当がバカで非常識なことを言うようであれば、さっさと御引き取り願いましょう。決して貴重な情報を材料代だけであげてしまってはいけませんよ。それから、来年度どうのこうのと言うのにだまされてはいけません。この会社だけではなく、私はこれまでこの言葉に何度泣かされてきたことか。基本的に企業の人に「来年度」はないんです。

 

実例2.いやーな会社
 大学の研究というのは応用面で企業の研究の一歩も二歩も先に行き技術面で社会に貢献するか、基礎のところをやってノーベル賞狙うかのどちらかしか存在価値はないと私は思って研究しています。ですから、企業にとっては大学の研究者というのは、いつ社にとって必要になり、御世話になるかわからない存在です。ですから、教官が助手だからとか、若いからと言ってぞんざいに扱ってはいけません。
 今から10数年前、私がまだ傷つきやすいウブな助手のころ、私はこの会社にサンプルの提供を御願いしました。当時、有機EL材料は市販されておらず、必要なものはすべて合成しなければならなかったんですね。その材料は有機EL関係者なら知らぬものはいないほどポピュラーな材料で、今ではうちの学生は全員目をつぶってでも合成ができる様な材料です。ただ、10数年前は合成した材料の純度がどれぐらいで、それがどれぐらい素子特性に影響を与えるのかわからなかったもんで、当時、有機ELの研究をしておられたこの会社に電話をしてこの材料を少し分けていただこうとしたわけです。そうすると担当者の返事は、「競合するところにはサンプルは出せません」の一言。ガビーン、ですよ。大学には企業の人は全面協力してくれるもんだと思っていた浅はかな僕。ショックを受けながらも、その時心に誓いましたね、この会社には今後いっさい協力を求めないし、オレがいくら偉くなっても協力しないと。傷つきやすいウブな助手だった頃のこの一件、今でも忘れませんね。
 この一件から学んだことは、企業は常に大学に協力はしてくれない。だから、協力してくれない企業にはいっさい協力しない。皆さんも一度いやな目に合わされた会社にはシッポを振らぬよう、初志貫徹してくださいね。後で痛い目に合わせてやりましょう。

 


実例3.不愉快な会社
 最近何がいちばん不愉快かというと、情報はタダと思ってる会社の多いこと。だいたい日本人は空気のような形のないものはタダと思っているフシがある。たとえば、情報収集や技術指導が目的で研究室を訪れる企業の人。一回目はいいですよ、けど2回目からは奨学寄付金申込書か技術指導申込書を携えてくるべきです。大学の情報はタダとばかりにクソ忙しいのに時間を割かれて、こっちは昼間来客で時間をとられると、よるにそのツケが回り、結局プライベートな時間を割くことになるわけですよ。極端な話、我々は自分の睡眠時間を割いて来客の応対をするわけです。それなのに、情報を得る側の企業にその意識のない人が多すぎる。技術士に一回相談すると30万円料金がかかるわけです。大学の先生に相談するときもそれなりのことを考慮すべきです。最近は、さすがに少なくなったけど、ひどいのはいきなり「有機ELの有機ってなんですか?」なんて聞く不勉強なアホがいる。せめて「有機ELのすべて」(日本実業出版社)を読んでから来いっちゅうの。
 同様に不愉快なのが、電話をかけてきて東京に出てきたときにお目にかかりたいと、のたまうやから。もう、すぐに電話を切りたくなりますね。そんな軽い気持ちでオレの時間を使うなと言いたい。たとえ、出張中であってもこっちの時間の貴重さには変わりありません。出張中でも5分刻みで活動しているのですよ。ですから、こういう人たちにはいろいろ理由を作って御断りしてます。そんな軽い気持ちで面会を要求する会社からは何も期待できませんからね。時間の無駄です。ですから、私は東京へ出てこられたときにはぜひ来社してください、なんて言葉は社交辞令ととらえて、絶対に行くことはありません。ついでによってくれなんて会社より、出張旅費を払うから是非いついつ来てくれと言われるほうがましです。
 大学というところは敷居が低くあるべきだと思いますが、どかどか土足で上がってくるような非常識なバカどもは、皆でルールを作り、思い知らせてやる必要があります。とにかく、2回目以降も手ぶらで来る担当者がいる会社には何も期待できないので、それなりの対応でそうそうにお帰り願いましょう。二度も真面目に対応すると相手は図に乗りますからね。


大学のみなさん、だまされないように気をつけましょうね。
他にもまだまだありますので、この続きはいずれまた。

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