ここのところ、有機ELが異常に盛り上がってますね。私個人的には人と金がこの分野にますます投入され、開発が加速するので喜ばしいことと考えてます。しかし、世の中には、この加熱ぶりが心配だという病的に慎重な人もいますね。ボランティア精神に富む私としましてはこのような人たちの病気を治してあげようと、ここに立ち上がり、心配事を解消するべくコメントさせていただきます。
心配の種その1:
無機半導体屋から見ると、有機ELは弱っちいデバイスである。100cd/m2で寿命が5000時間、1万時間というのはオモチャである。
コメント:
はい。まったくそのとおり。ホタルのように有機物には寿命があり有機ELにも寿命があります。人はたかだか80年そこそこしか生きられないのです。心配性のあなたの寿命はもっと短いでしょう。けど、1000年も生きたいですか?別の言い方をすると同じ携帯電話を10年使う人がこの世にいますか?使いたい期間だけ、使えればいいわけでしょ。これはいい訳でも何でもなく、消費者がそう考えるわけですよ。10年使える高価なものより3年使えるものを安く供給してくれ、とね。このような柔軟な考えができない技術者は、典型的な技術オタクで、自分の技術におぼれてるわけです。世の中の動きについていけませんよね。ちなみに、100cd/m2そこそこでは、数万時間のオーダーですよ、今では。情報は常にアップデートしてね。
心配の種その2:
有機EL人は私を含め言い訳が多すぎる。有機イイエルならず有機イイワケデバイスである。たとえば、
1)フルカラーディスプレイにおいて、点灯率30%で消費電力の話をする。
2)同じパターンの表示では焼き付きを起こすが、動画であれば目立たない。
3)携帯端末では連続使用時間が短いから実用化できる。
4)パッシブ駆動では寿命が短いがアクティブ駆動ならOK。
5)通常では太陽光の下では使わないので輝度は低くてもよい。
などなど。
コメント:
1)に関しては、これは事実でしょ。言い訳でも何でもなくて、必要な画素を必要な輝度で発光させる。理想的じゃないですか。液晶のようにバックライトは常に全点灯、黒の部分でも後ろからガンガン光を当てて、光を無駄にして、しかもコントラストを低下させる。実際に、フィルターによるロスなどで冷陰極管から出た光の数%しか利用しておらず、光の利用効率の低さを聞くと技術者として恥ずかしくなりますよね。私自身このことを考えると、液晶モニターのついたパソコンを使うときは、エネルギーを無駄にしていると、いつも後ろめたい気分になりますよね。
2)に関しては、これも事実でしょ。これは有機ELに限らず、発光型ディイスプレの宿命であって、この現実を知りながら使いこなせばいいわけですよ。
3)これのどこが悪い!使えるところから使う。たとえば液晶を見ろ。昔、STNLCDという見ていて極めて不愉快になるディスプレイが日本語ワープロに搭載されてただろ。ノロイから駄目、カラーじゃないからダメなんて当時、誰も言わんかったでしょう。あれがあったから今のAM液晶があるんだろ。
4)パッシブよりアクティブの方が駆動電流密度が低くて寿命が長いのは一般的には正しいです。それがどうかしましたか?
5)誰もこんなこと言ってないっチューの。
心配の種その3:
発光デバイスというものは10000cd/m2で10000時間の寿命を持たなきゃ存在価値ナシ。出光興産の200cd/m2で20000時間なんてちゃんちゃらおかしい(そんなこと言ってないか)。
コメント:
バーカ!PDPはどうだ。消費者が納得する寿命があればええんや。出光に謝れ。細川さんはたぶん怒っておられるぞ。それに、最先端では有機ELでも10000cd/m2で10000時間の技術も開発済みじゃ。
心配の種その4:
有機ELでは赤色が問題。材料そのものが見つかっていないことが致命的。
コメント:
心配させてごめんね。赤はもう問題ないです。はい。
心配の種その5:
大手半導体メーカーが有機ELに対して慎重なのは、有機ELが駄目な証拠である。
コメント:
たとえば、インテルにディスプレイを量産する技術はありません(あるかもしれない)。ですから、台湾の有機ELメーカーに投資しているのです。TIはDLPで満足してますし(ほんまかいな)、ここもいまさらフラットパネルディスプレイの量産なんてできんでしょう。IBMはあのチューリッヒ研究所でずいぶん前から真剣に研究してますし、eMaginという会社と有機ELマイクロディスプレイで協業されてます。日立はすでに有機ELにかぎらず有機デバイスに対して真剣モードですし、東芝がポリマーELディスプレイの量産を発表したのを知らないかなあ。NECに関しては、すでにこのサイトで紹介したように、携帯端末N2001はNECが量産した有機ELです。三菱電機にはたぶん、心配性の人がいて有機ELの技術が十分理解できなかったんでしょう。いいんじゃないですか。有機ELを手がけない会社があっても。だから、有機ELが駄目な証拠はぜ~んぜんありません。
心配の種その6:
三洋なんかが2年前からデモしてるのにいまだに量産化されない。信頼性に不安があるからに違いない。
コメント:
あのね~。有機材料の連続蒸着、マスク技術等、有機ならではの量産技術が必要とされるわけです。液晶のように、装置メーカーから量産機を買えばディスプレイが量産できるような段階じゃないわけ。信頼性ドーのコーのとは、違う次元の話なのね。
心配の種その7:
有機ELは熱に弱い。
コメント:
低温で動作しない液晶はドーなの?っと言いたい。真冬のアラスカじゃ液晶ディスプレイは使えないのよ。知ってるでしょ。分子を動かす液晶ディスプレイというのは限界があるんですよ。その点、有機ELは電子を動かすだけだから、低温でも全然問題ないわけ。高温でも車載用として使われてるぐらいだから、一般消費者が使う環境では、真夏のハワイから極寒のアラスカまで、かる~くクリア。低分子系と呼ばれる系では材料の軟化点が100℃をすでに超えていて、環境温度のライフに対する影響は今ではほとんど問題ないです。
以上、心配の種に対してお答えしました。心配性の人たち、これからは熟睡していただいても結構です。起きなくて結構です。あなたの出番はもうありません。
LCD vs OELに関してさらに付け加えると、私は技術者として、究極のデバイスというのはエレガントであるべきだ、と考えております。フィルターをベタベタ貼りまくり、光のロスが90%以上、画質はいまだに不十分、しかも30インチLCDの値段を見たら目が飛び出る。誰が見てもエレガントじゃないですよね。