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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2006年07月23日
拝啓 日経マイクロデバイス編集長殿

いつもお世話になっております。


先日、貴誌7月号が配達され、特集「動き出す有機EL」を楽しく、うれしく拝読いたしました。有機ELの技術開発が順調に進んでいること、実力トップクラスのキャノンがデジカメを全部有機EL搭載にすること、サムスンがグループで有機ELに真剣に取り組み、アモシリTFTを用いたアクティブディスプレイがほぼ実用化レベルに達したこと、コストで液晶に勝てること、あの液晶のシャープまでが、有機ELを液晶に代わるディスプレイとして真剣に検討していること、などなど、「生涯有機EL一直線」の私にとりまして、かつて少年サンデーをムサボリ読んだあの時のように、一気に読み切りました。


よかったです。


貴誌が常々有機ELを好意的に扱っておられること、有り難く思っております。私も貴誌には裏情報、マル秘情報、ここだけの話、を優先的に提供させていただきたいと思っております。

 

その一方、不愉快な記事が167ページに掲載されております。実は今回はそのことについて抗議させていただきたいのです。それは、牧本次生氏の「拝啓 文部科学大臣殿」という記事です。私は、見かけによらずこれでも文部科学教官で、文部科学大臣は組織のトップなのです。私のボスです。ですから、超多忙な本物の大臣に代わり、影の文部科学大臣である私がこのホームページを通じて反論させていただきたいと存じます。

 

まず、牧本氏は、「90年代以降、我が国の国際競争力が低下し、半導体シェアを落とした。これに対応するには人材の育成が必要。今日の教育行政は時代のニーズからかけ離れている。」と、おっしゃいます。


悪いけど、笑っちゃいました。


半導体のシェアを落としたのは、国内半導体メーカーがサムスンなどの外国勢をナメてかかったからであり、適切な投資を適切なタイミングでしなかっただけなのです。ハッキリ言って、当時の半導体メーカーの経営者の能力の問題です。仲良しクラブのお坊ちゃんに、まともな経営ができなかっただけです。その責任を教育行政のせいにするとは、バカな子供を持った親が社会のせいにするようなモノです(???)。

 

それに、「小学校から英語を必修にするのは、グローバル化の第一歩であるが、それでも十分ではない。中、高ではもっと実際に役に立つ英語を教えるべき。」と、主張される。


牧本様がどなたか知りませんが、完全に勘違いされてますね。
国民全員が英語がしゃべれることがグローバル化ですか?
英語でのコミュニケーション能力の前に、日本語でのコミュニケーション能力ありきでしょう。日本語ですらコミュニケーションできない若者が増える中、英会話を教えても意味ないです。それに、グローバル化には国民が日本人として国際化することであり、祖国の言語を自由に扱えないだけじゃなく、歴史も文化も身に付けず、しかも愛国心を持たない人間が、いくら英語がしゃべれたとしてもそれが国際人なのですか?そんな人間を増やすことがグローバル化なんでしょうか。

 

それに、なんですって、(だんだん興奮してきた)、
「シンガポールの国際競争力がアジアでトップであるその一因は英語レベルの高さにある」って?
英語レベルの高さが国際競争力に結びつくなんて、はじめて聞きました。では、公用語が英語のフィリピンはどうなんですか?日本人なんかより、よっぽど英語を話せる人の割合が高いですよ。インドはどうですか?国際競争力の高さを英語力の高さに無理やり結びつけるとは、DHAを摂取すれば頭が良くなると勘違いしているその辺のオバハンと大差ないですね。

 

だいたい、英語がそこそこしかしゃべれないトップがいる企業でも世界的に活躍している企業は山ほどありますよ。私も英語はヘタですけど、海外で向こうの研究者と対等にやり合えますからね。英語力なんて人間力のホンのごく一部でしょう。野口英世が初めて海外に渡航した時、英語がペラペラにしゃべれたとは思えませんがね。

 

そして、許せないのが、次の一文です。「日本の大学は競争力強化のニーズに応えておらず、国際的な評価が低く、東大は二流、京大が三流」これは、スイスIMD(International Institute for Management Development)の評価だそうですけど、まず何を基準に評価したのか説明されてない。それに、トップ200校のうち、東大が12位で、京大が29位、東工大が51位と堂々とランクインしているのに、二流ですか、三流ですか。トップ200に入ること、それはすなわち一流なのですよ。全世界にどれくらいの数の大学があるかご存知ないのでしょうか。オリンピックでメダルを獲得をる選手が一流で、4位以下は二流であり、10位以下は三流だ、なんて言ってるのに等しいですね。バカ。

 

最後に、「アジアの国々の大学からの半導体分野の国際会議での発表件数がここのところ急増している。中でも台湾は知的集約型産業への志向を強め、世界各地から有能な大学教授を招聘し、さらに半導体関係の大学職員数はこの4年で2倍以上になった。」なんて、大学における研究活動について言及されたのには、あきれましたね。

 

まず、アジアの他の国々とは文化も産業も異なるのです。それを半導体産業の衰退だけを取り上げて、大学の教育環境が悪いと断ずるのはいかがなものでしょうか。国際会議の論文数など、大学を集中研にして国のプロジェクトを走らせれば、すぐに倍増どころが3倍増、4倍増にできますよ。半導体産業の衰退は、すなわち半導体メーカーの経営戦略の悪さ、ビジョンのなさ、志の低さ、の結果であり、それを大学教育に無理やり結びつけるとは、自分の子供のできの悪さを小学校の先生のせいにするようなもんです。

 

以上、半導体メーカーの経営者の経営能力の低さによる産業の衰退を、我らが大臣のせいにされるのは許し難く、影の文部科学大臣として一言反論させていただきました。だいたい、大臣はひな壇のお飾りで、実質何にもされてないし、現場のことなんて何にもご存知ないし、最近ではゆとり教育とか、教員レベルの低下とか、問題山積で尻に火がついてるし、それに、次に誰が総理大臣になるのかすごく気になるし、申し訳ないけど半導体産業の将来なんて知ったこっちゃないのですよ。


だから、大臣を責めないでいただきたい。


それに、もし万が一、牧本氏が主張されるような教育を我が国で行えば、近い将来、日本語をまともにしゃべることもできず、コミュニケーションもできず、愛国心も持たず、単に英語がそこそこしゃべれる半導体バカが増えるだけで、グローバル化どころか、外国企業にカモされまくり、外国に出稼ぎに出かけ、外国企業に国内の半導体製造装置を売りまくる、そんな日本人とは呼べない無国籍人が増えるだけですね。

 

真に国内の半導体産業を再生させるには、各メーカーが外国企業と戦えるまともな「真の経営者」をトップに据えることです。ただそれだけですね。我が国の日の丸サッカーチームも外国人が監督をしているのはご存知のとおりまた、国際人の育成は、まず初等教育において、読み・書き・そろばん、基本教育を充実させること。バカな親を教育すること、若い時に一度は留学して外国を知ること。これで十分ではないでしょうか。簡単なことです。

 

ですから、日経マイクロデバイスの編集長殿、今後こんなバカな記事を掲載しないよう、よろしくお願い申し上げます。

 

敬具

影の文部科学大臣
城戸淳二

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