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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2005年09月14日
誰も語らない産官学連携の問題点

 6月25、26日に京都で開催された第4回産学官連携推進会議に聴衆の一人として参加した。まず、参加者が3000人もあるこのような会議が開かれていることを今回初めて知り驚いた。しかも主催は内閣府、総務省、文部科学省や経済産業省など、国を挙げてのイベントであり、国を挙げての産官学連携の大合唱である。

 

 大学の研究シーズを産業化につなげようというのが、産官学連携の目的である。本会議では、大学側と企業側の研究シーズとニーズのミスマッチや、学生の教育に関する問題点、すなわち博士課程の学生が専門性が高すぎて企業では使えない、などが指摘されていた。これは、産学連携後進国日本では致し方ないことで、時間が解決するだろう。
 むしろ、産学連携の本質的な問題点は、少なくとも6割の大学教員は企業との共同研究に興味はなく、自分の好きな研究を行っているということである。もちろん、企業のニーズに応えない長期的な基礎研究は重要であるが、重箱の隅をつつくような単なる暇つぶしにも見える研究が少なくない。
 実際、産学連携に熱心で、しかも研究能力に抜きんでた教員は全体の数パーセントいればいい方であろう。したがって、産官学連携のための理想的な制度を構築しても、現場の教員が期待されるような働きをしなければ、「仏作って魂入れず」となるのである。

 

 では、どうすれば大学教員を活性化し、眠りから覚めさせることができるのであろうか。一つの方法は、教員にインセンティブを与えることである。すなわち、文部科学省からの科学研究費補助金や企業からの共同研究費の一定の割合を教員の収入とするのである。そうすれば、外部資金を調達すればするほど、教員個人の収入が増え、やる気が出るというものである。現状では、教員である我々が研究活動を行ったり、国家プロジェクトのリーダーを引き受けても、すべてボランティア活動であって一銭の収入にもならない。
 また、講義の単位を売り買いできるようにし、外部資金が豊富な教員が、研究よりむしろ講義でその能力を発揮する教員に対して、研究費から講義負担料を支払い、換わりに講義を担当してもらうのである。だから、講義を持てば持つほど高収入となる。したがって、研究能力や講義能力のある教員は今より高い収入が得られ、なんの能力も持たないダメ教員と差がつくのである。

 

 未来の優秀な教員、すなわち優秀な学生を博士課程に進学させるのにも工夫がいる。今のような経済状況では授業料や生活費を博士課程の3年間も負担できる親は多くない。実際に、博士課程に進学したくとも両親の援助が得られずあきらめるケースは多い。
 したがって、アメリカのように指導教員が研究費から学生の授業料や生活費の一部を負担できるようになれば、博士課程へ進学する学生の数は一気に増えると考えられる。そのためには、科学研究費補助金や共同研究費からそのような項目へ支出することが許される必要がある。

 

 ダメ教員の割合を減らし、研究能力のある教員の元で優秀な学生が研究に打ち込める環境さえ整えば、いまさら産官学連携を声高に推進しなくとも、大学の研究シーズは確実に産業につながる。
 どうも教員の質の問題を議論するのはタブーのようである。

 


この拙文は、フジサンケイ ビジネスアイ(日本工業新聞)の
「i's eye(ア イズアイ)」というコラムに2005年7月14日に掲載されたものです。

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