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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2005年04月23日
有機のあかりが世界を照らす

 有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、発光性を有する有機物質を電気的に光らせる、いわば電気で光らせる人口蛍みたいなものである。この革新的な発光素子を照明器具に用いる研究が世界的に注目されている。

 

 照明には白色光を利用するが白色発光する有機EL素子は、実は今から10年ほど前に日本で、ここ山形大で初めて生まれた日本発の技術である。現在、効率は白熱電球と蛍光灯の中間程度であるが、2~3年後には蛍光灯に追いつき追い越し、10年後には、消費電力で蛍光灯の半分以下になるだろうと予想されている。最終的には、照明で消費する国内の電力の約4割を削減できるところまで高効率化が進むと考えられている。
 したがって、有機EL照明は非常に大きな省エネ効果や二酸化炭素の排出量の削減効果も期待できる技術として、国家戦略の中に位置づけて開発を推進すべき技術であるが、現実には国としての取り組みが、はなはだ積極性に欠けるのである。具体的には、有機ELの技術開発に経済産業省が費やす研究開発予算といえば、たかだか年間数億円程度である。 一民間企業の研究開発予算よりも少ないのである。特に、有機EL照明の開発としては、現在我々が経産省から外郭団体の新エネルギー・産業技術総合技術開発機構(NEDO)を通じて委託されている3年間で3億6千万の研究費のみといっていいだろう。

 

 これに対して、欧米では単に省エネ光源としてだけではなく、水銀フリーの環境適合型照明としても積極的に開発を進めている。特にEU(欧州連合)では、水銀を使う従来の蛍光灯の使用が規制されるのを受け、今年から100億円を超える予算を投入して、有機EL照明のプロジェクトを立ち上げ、遅れている有機EL照明技術で日本に追いつき、一気に追い越す方針を立てた。
 世界的な照明市場では、欧米メーカーのフィリップス、オスラム、ゼネラル・エレクトリックが、世界三大照明メーカーとして君臨している。有機EL照明で一気に国内照明メーカーが世界に打って出るチャンスがあるのに、このままでは世界地図を変えられそうにない。

 

 3月下旬に小泉純一郎総理や中川昭一経産大臣に、関係省庁を通じて我々が試作した世界初である有機EL照明器具を見ていただいた。総理や大臣にはずいぶん気に入っていただいたようであるが、現場や産業界が直面している問題点を、果たしてお役人は説明したのであろうか。一昨年は、与党の政調会長の視察団が山形大の当研究室を訪問され、昨年は私が所長を務める山形県の有機エレクトロニクス研究所を民主党の岡田代表が訪問された。そのつど、夢のある有機EL技術を説明させていただき、経済効果のみならず地域の活性化やものづくり国家日本の復活、現場の直面している危機を直言させていただいた。しかし、いまだに役所が動く気配はない。

 

 フリーターやニートと呼ばれる若者が増え、技術力の低下だけではなく、技術者さえも自前で調達できなくなりそうな日本。閉塞感の漂うこの国を変えるのには、私自身が政治家になって国を動かすしかないのであろうか。
 有機の光が世界を明るく照らすとしても、日本だけは真っ暗ということにならないことを祈る。

 


この拙文は、フジサンケイ ビジネスアイ(日本工業新聞)の「i's eye(アイズアイ)」というコラムに2005年4月22日に掲載されたものです。

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