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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2005年04月23日
自由に企業と研究してこそ産学連携

 産学連携がブームである。ブームということは、いずれブームが去ってすたれるということである。なぜか。

 

  たとえば、大企業と大学との包括提携である。はたして、研究現場においてこれを歓迎する人はいるのだろうか。学長は喜ぶ。特に旧帝国大では、メンツがあるので、学長や産学連携担当理事が旧知の社長や役員に料亭で話をつける。企業トップとしては、たかだか年間1億円程度の研究費だから広告料と思えば高くない。ヘタなテレビコマーシャルを打つより効果的である。ひょっとしたら成果がでるかもしれないし。

 

  しかし、泣いているのは現場である。教員によってはすでに他の企業と共同研究している場合もあるだろうし、国のプロジェクトに関わっているかも知れない。そこに、なんの関係もなかった企業と大学が包括提携したところで、そんなものに本気で時間は費やさない。それに学内の大勢の教員に研究費を平等に分配すると、結局一人当たりは微々たるものになり、やる気も出なけりゃ責任感も感じない。
 企業サイドでも研究費は結局のところ、研究部門の負担となり、研究開発予算が削減されることになって現場の研究者は泣いている。実際に包括提携したものの、思ったように成果が出ず(当然だけど)、派遣されてる研究者もアホらしくて会社に戻りたがってるプロジェクトは多い。

 

  これに加えて大学の技術移転機関(TLO)が産学連携をダメにしている。国立大学が独立行政法人化され、各大学ではいろんな手段を使って収入を増やそうとしている。その中で、特許ライセンスで一獲千金を得ようと、文部科学省の後押しもあり、TLOを設置した大学は多い。知的財産も機関帰属にした。

 

  ここでまず問題になるのは、大学の役員やTLOの担当者が、特許の本質を理解していないところにある。特許というものは、本来、製造業において発明者の権利を守るためにあるもので、モノを作ってナンボのものである。
  何も製造しない大学が権利を持つと、共同研究企業に対して不実施保証を要求する。その額も一律何%と決めて交渉の余地のないところも多い。共同研究契約の交渉が暗礁に乗り上げているケースが全国に無数に存在するのである。
  また、TLOにしても人件費や特許出願料、維持費等が十分に確保できていないし、あったとしても微々たる特許収入しかなくて大赤字である。大学にとっては不採算部門である。あと5年もたてば、ほとんどのTLOが姿を消すだろう。

 

  では、どうするのか。
  簡単である。
  ここ山形大学のように、TLOをもたず知的財産も個人帰属にし、教員がこれまでどおり自由に企業と研究活動できる環境を整えることである。大学の知的財産本部がすべきことは、ウブな教員が企業にだまされないように、教育してあげることであろう。教員が外部資金を獲得すればするほど、大学の取り分である管理費も自動的に増える。
 本気で産学連携で成果を出したい企業、自由に研究活動したい教員にとって、山形大学は理想郷ともいえる環境を備えているのである。
  山形大学では産学連携はブームでは終わらない。

 


この拙文は、フジサンケイ ビジネスアイ(日本工業新聞)の「i's eye(アイズアイ)」というコラムに2005年2月7日に掲載されたものです。

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