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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2005年01月14日
国家プロジェクトはなぜ失敗するのか

 科学技術分野における国家プロジェクトと聞くと、国が将来を託す科学技術を開発すべく、数百億という大金を投じて推進するもの、と誰もが思っている。また、プロジェクトリーダーがリーダーシップを発揮しながら企業のエリート研究者とともに、知恵を出し合い最先端技術を開発している、と思っているに違いない。その結果、企業は製品を高性能化したり、新製品を実用化したりして、利益をあげて国の経済発展に貢献している、とも思っているだろう。 
 これらは、すべて間違いである。実は、国家プロジェクトのほとんどは失敗に終わり、実質経済効果はゼロである。

 

 まず、国家プロジェクトといっても、予算はまちまちで一般的には十分な額が確保されていない。これは、多くの分野にばらまき、中途半端な予算のプロジェクトが乱立しているからである。民間では「選択と集中」が推進されているのに、役人の世界ではいまだに、公平に、まんべんなく、である。したがって、崇高な目標を掲げたプロジェクトであっても予算不足で目標に達しないまま終わる。
 また、最近のプロジェクトでは、プロジェクトリーダーを置くようになったが、これまではリーダー不在のまま、「分散研」方式で研究テーマを各企業が持ち帰って実施していた。これでは単なる研究費のばらまき。もらった方は好き勝手に本来の目的以外にも平気で使う。リーダー不在イコール責任者不在であり、プロジェクトが目標に達せず、失敗に終わっても責任を取る人間はいないから、みな好き放題である。だから、現在進行中のプロジェクトでもリーダーの顔が見えないものは失敗に終わると見ていい。
 たとえ研究者が一ヶ所に集まる「集中研」方式で実施したとしても、企業がエリート研究者を派遣するとは限らない。私は国家プロジェクトを姨捨山と思っている企業をいくつか知っている。すなわち、能力はないけどリストラできない研究者を集中研に送り込むのである。
 リーダー間で話をすると必ずこの問題が話題になる。捨てられた三流研究者は、プロジェクトにとっては百害あって一利無し。研究開発が遅れるだけでなく、人間関係で問題を起こすことも多く、実質マイナス貢献である。企業のプロジェクト担当者にはぜひ考え直していただきたい。

 

 他にも問題点としてピンハネがある。各省庁から実施者に直接研究費は配分されず、天下り先のいる外郭団体を経由することにより、いわゆる管理費という名でピンハネされる。さらに、このような管理団体が事務処理だけでなく、プロジェクトの内容にまで口出しして、リーダーをひな壇のお飾り状態にする場合は最悪である。管理団体が、自らの都合、利益だけを考えて口出して、研究テーマや参加企業を変更するようになると末期症状である。

 

 さらに、担当省庁では、プロジェクトの立ち上げ、中間評価、最終評価の担当が異なり、担当が変わるたびにプロジェクトの方針が変更される。なぜなら、プロジェクトが変更なく成功すれば、それは立ち上げた人間の手柄になり、途中で関わった人間にはなんのメリットもないからである。

 

 ビジョンなき役人の責任は大きい。
 このような状況を我が国の各省庁の大臣はご存知なのだろうか。

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