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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年01月10日
日本の大学、アメリカの大学(その1)

 1月9日の日経産業新聞でカリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授が吠えておられる。みなさんもご存知のように中村教授は日亜化学で青色発光ダイオードを開発され、最近、カリフォルニア大学の教授として異動された、あの中村さんである。コラムのタイトルが、「日本はまず教育改革を-大学生のレベル米に完敗-」と手厳しい。

 

中村さんのおっしゃられていることをまとめると、


大学について:
・サンタバーバラ校はエキサイティング、教授も学生も起業家精神がおう盛
・サンタバーバラ校は年率20%も学生と教官数が増え、少子化で頭を悩ます日本と大違い
・学生が必死で勉強するから教官は講義の準備で大変
・大学生の知識レベルでは日本が完敗

 

 

日亜化学について:
・青色LEDの実用化でも特別賞与100万円だけ
・年に360日働いても他の部長と年収は同じ
・社長が代わり自由に研究ができなくなった
・退社に際してトレードシークレットにサインをしなかったので退職金一切なし
・日亜が中村氏を特許侵害で訴えているのは理由がわからない

 

 

日本の将来のために:
・優秀な技術者はFA宣言して海外に飛びだすべき
・優秀な頭脳の流出が続けば国も真剣に考える
・若者の才能をつぶしている大学受験をなくせ
・日本の大学では広く浅い知識しか教えていないから専門を知らず最低ランクに落ちる


 中村さんは大学に移られて約1年の経験、私はアメリカの大学で5年間大学院に在籍し、日本の国立大学の教官を務めて12年、たぶん、日米大学のシステムについては私の方が知っているんじゃないかと思います。そこで、中村さんの発言に私なりのコメントを。

 


大学について:

・サンタバーバラ校はエキサイティング、教授も学生も起業家精神がおう盛
 これホントですよね。昨年はノーベル賞受賞者を二人も出し、その内の一人はヒーガー教授で、ご存知のようにベンチャー企業を立ち上げておられる。
 日本ではようやく国立大の教官に民間企業の兼業が許されるようになり、役員にまでは兼ねられるようになりました。でも、遅れてますよね。学生にしても起業家精神は全くゼロ、いまだにバカ親たちは大手企業や公務員などの安定な就職先を勧めている。


・サンタバーバラ校は年率20%も学生と教官数が増え、少子化で頭を悩ます日本と大違い
 これ部分的に間違い。サンタババーバラ校の学生数が増えるということは他大学の学生数が減るということ。アメリカではそれだけサバイバルが激しく、サンタバーバラ校も中村さんのようなスーパースターを招聘して生き残りに必死なわけです。だからアメリカでは逆につぶれてる大学も多いはずです。
 日本の場合は特に国立大学は入学定員があり、特定大学の学生数が増え続けるということはありません。ですから少子化でつぶれるのは偏差値が低くて人気のない三流私学や地方国立大学からです。すでにつぶれる順番が決まっていて教官も覚悟ができてるんです。何処とは言いませんが田舎大学はノンビリしたもんで、だれも頭を悩ましてないですよ。

 

 

・学生が必死で勉強するから教官は講義の準備で大変
 12年前に山形にやって来て、心の底から驚いたのは大学院の講義で寝てるアホがいたこと。おまえは大学院になんのために来ているんだ、と思ったね。アメリカの大学院ではみんな必死。もちろん出席なんかとりません、その必要ないからね。私も学部の時はマージャンとスキーとバイト三昧でしたが、あちらの大学院では必死でしたからね。(全然、自慢になりませんが。)

 

・大学生の知識レベルでは日本が完敗
 大学生の学部レベルではあまり変わらないんじゃないでしょうかねえ。日本では高校で埋め込んで、大学で遊んでアメリカに追いつかれるという構図で、追い抜かされるのが大学院レベルですね。
 特に、最近では文部科学省がゆとり教育とか言って、中高で教科数を減らしたり、内容を低下させたりで高校が中学化し、大学が高校化し始めているわけです。ですから、これまで学部レベルでは日米同等であった学力レベルが、ここでアメリカに抜かれるということになりかねませんよね。

 


日亜化学について:

・青色LEDの実用化でも特別賞与100万円だけ
 そんなもんでしょうねえ。有機ELの父、コダックのタンさんが会社から受け取ったのはたぶん100万円ないですよ。だから私は企業では働きたくないの。夢がないよね。これはアメリカも日本もメーカーではおんなじ様なもんでしょう。けど、こんなことが公表されて日亜化学も恥ずかしいよなア。

 

 

・年に360日働いても他の部長と年収は同じ
 日本では大学でもおんなじ。論文数や研究費、指導学生数、講義数、招待講演数、その他もろもろにかかわらず、給料は一緒。年序列で功がなくてもオトナシクしてれば教授になれる。実力があっても好き放題言ってる中村さんは日本の大学システムなら生涯一助教授ですよ。私のように。


・社長が代わり自由に研究ができなくなった
こういう状況やばいんじゃないですか、社長。


・退社に際してトレードシークレットにサインをしなかったので退職金一切なし
 私の想像ですが、他の企業でもこういうことがよくあるんじゃないですか、日本企業では。これって、国全体から考えると研究者の流動性がなくなり研究レベルの低下を招くんじゃないでしょうか。国益に反しますね。


・日亜が中村氏を特許侵害で訴えているのは理由がわからない
いやがらせです。

 


日本の将来のために:

・優秀な技術者はFA宣言して海外に飛びだすべき
 FA宣言してるんだけどなあ(城戸)。


・優秀な頭脳の流出が続けば国も真剣に考える
 そんなことないです。政治家は縄張り争いで忙しいし、この国に将来を真剣に考えてる人はいません。元大学教授の先生が文部大臣になられたことがありましたが、結局、でてきたのが「ゆとり教育」ですもんね。教育現場の状況をホントに理解してる人が少なすぎるんですよ。


・若者の才能をつぶしている大学受験をなくせ
 ダメです。そんなことしたら、高校生が勉強しなくなり、大学がホントに高校レベルに低下します。受験をなくすんではなくて受験制度と大学の教育制度を変えるのです。

 今の日本では受験のために高校で勉強をして、大学では勉強しなくてもアホ教授が単位をホイホイやるので勉強しないわけです。ですから、大学入試は推薦を重視して9割は推薦、1割は従来の選抜試験にする。そして、高校の推薦基準もアメリカのように学科の評定平均とともにスポーツや芸術の分野での活動を加え、評価すべきです。もちろん、都の西北大学のように一芸だけで芸能人を入学させたりする大学は論外です。
 推薦の場合は面接が重要ですから、受験者全員を大学教官が面接し、最終判断を下せばいいわけです。それから、大学入学後もアメリカのように出にくくすべきで、ゲタをはかせて単位を出したりせずに、教科をきちんと理解し習得している学生にだけ単位を出すべきです。そうすれば、卒業したい学生は出席をとらなくても講義にでるだろうし、すこしは真剣味がでるんですよね。留年生が多すぎる、とかオカミが口出しすべきじゃない。

 

 

・日本の大学では広く浅い知識しか教えていないから専門を知らず最低ランクに落ちる
 うーん、これはどうかな。日本の大学では逆に同じ研究室に学部から大学院まで在籍するもんだから専門バカが多すぎるんではないでしょうか。有機ELや液晶ディスプレイ、半導体デバイス、バイオ関連等、卒業後、即戦力になれるような分野ならアメリカに引けを取らないと思いますが、それ以外の役に立たない、くだらない、ドウショウモナイ研究に若い貴重な時間を潰してしまうからダメなんですよ。

 研究室間、学科間、大学間でもっとダイナミックに人が動くような、動けるような社会にしなくてはこれは変えられないですよね。


日米大学比較、つづきます。

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