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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年07月01日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その11)

その11 「銀行の利用法」

 2月の初めに桜が咲いて、20℃近い日があり春を思わせていたのだが、天候は急変し、25年ぶりというWinter Stormが吹き荒れた。シリコンバレーを囲む山々が雪化粧をして、米沢の景色を思わせる。
  急激な変化は何も天候だけではない。好調を続けてきたアメリカ経済もその減速がはっきりしてきて株価はこのところ低調続きである。一方、日本経済予測もマイナス成長となるとの変更見通しが出されて、日銀の金融緩和措置がとられるなど為替に与える影響が読めない状況が続いている。森政権退陣のニュースで円が高くなったり、イラク攻撃でドルが戻したりと何かと忙しい。円安は生活を直撃するだけに気になるところである。(ちなみに、退陣のニュースが円に好材料となる首相というのも珍しい。)
  海外で過ごすのに最も大事なことの一つは「お金」であろう。そこで、今回は銀行に関することについて少しばかり触れることにする。城戸先生が「独り言」で書かれているようにアメリカではクレジットカードのない生活は考えられない。IDとしても重宝だし、大抵の支払はカードで済ますことができるので便利である。一方、アパートを借りて生活する場合に、クレジットカードと並んで必要となるものがパーソナルチェックである。家賃や公共料金などの支払はすべてパーソナルチェックで行われるからである。アメリカでのクレジット歴をつくることを考えなければ、クレジットカードは日本で準備したものでも事は足りる。しかし、パーソナルチェックを使いたいとなればそうは行かない。滞在開始早々に、米国銀行での口座開設をしなければならない。


 
 ここカリフォルニアには多くの日系銀行がある。しかし日系銀行といえども1歩中に入るとアメリカの他の銀行と何ら変わらない。日本人の多いエリアには日本人スタッフがいることもあるらしいが、近くの支店には見当たらなかった。給与振込口座をシティバンクにしていたので、アパートに引越しして間もない頃、近所のシティバンクに行ってみた。シティバンクのATMは優れもので、日本で作ったキャッシュカードを入れると「何語の表示を希望しますか?」という選択画面の筆頭に日本語が表示される。これを見て、つい「この店は日本語を使える!」と早とちりをしてしまったのである。喜び勇んででデスクに行き、「I'd like to open a account. Is there a staff who can speak Japanese?」と尋ねたが、非情にも答えは「No」であった。自分は英語が得意でないのでゆっくりと話をしてくれと、最初にお願いしたのだが、アメリカ人は情け容赦なく早口で話をしてくる。しかも、手続きの間、バンカーはにこりともしない。どう見ても大学出たての若造なのだが、胸をはってふん反り返った姿勢で接するので、どうもやりづらい。 冷や汗をかきかき筆談を多用して何とか無事開設することができた。日本国内の銀行 の方が接遇は優秀である。
  銀行の活用について感じたことを幾つか記しておくことにする。シティバンクのキャッシュカードは、ほとんど何処でも使えて、しかもシティバンクの支店ATMであれば日本語表示なので便利である。しかし、手数料がかかるのが難点である。円をドルキャッシュに変える手数料として、TTS(円からドルに換える時のレート)に1ドルあたり3円の手数料がかかる。スーパーで買い物をしても現金なしでキャッシュカードで支払ができるが、これにも同様の手数料がかかる。シティバンク以外のATMを使用した場合は、その他にATM使用料(1ドルか2ドル)を取られることがある。これは他行を利用したことによる手数料で、例えば米国のシティバンクのカードで他行の 
ATMを使用したときも同様である。
 クレジットカードで買い物をした場合は、この手数料はかからない。適用する為替レートを別に定めているので一概に言えないが、ほぼ同時期に使ったときのを比べると、クレジットカードのほうが1ドルあたり1円程度有利なようである。キャッシュカードの場合は、支払をした時点で即座に口座から引き落とされるが、クレジットカードの場合は翌月決済なので、預金利息の点からもクレジットカードの方が有利だといえる。しかし、これは買い物の場合だけで、現金を手に入れるためにはクレジットカードのキャッシングは支払利息がつくのでキャッシュカードの方が有利なのは言うまでもない。


 

 1年くらい前から、地方銀行が発行するバンクカードがインターナショナルで使えるサービスを開始している。これは便利なので、もっと宣伝をしたら良いのにと思っているのだが、なぜか地銀側は今のところあまり熱心ではないようである。シティバンクは便利だが、一定以上の預金がないと口座管理料が必要になる、日本の預金保険機構の対象とならない、一部の公共料金等引き落としに使えないなどの欠点がある。海外でバンクカードが使えるのであれば、何もシティバンクである必要はないのである。実際に使用してみると、為替レート及び手数料はシティバンクと同じである。だが、使い勝手ではシティバンクに軍配が上がる。地銀バンクカードの欠点は、使ったときに口座情報が得られないことである。引き落とした額がいくらのレートで、残額がいくらかということがわからなければ、1回や2回ならともかく非常に使いづらい。インターネットでのサービスもシティバンクが充実している。邦銀の今後のサービス向上を期待したい。


 

 結局、私は現在シティバンクの海外送金を活用している。これは、事前に登録してある送金先に無料で送金できるシステムである。アメリカで口座を開設したら、口座登録用の用紙を送ってもらい所定の事項を記入し郵送登録する。郵便でのやりとりで登録までに時間がかかるが、以降はいつでも日本に電話一本で送金できる。(国際電話代がかかるので安くかける方法を確立しておく。色々な方法があって1/10くらいになる。)。こうすると3円の手数料がいらない。受入銀行によって1回あたりで手数料が必要になる(ちなみにシティから米シティで10ドル)ので、まとめて送金するとよい。私は、昨年11月の下旬から円安の傾向が出てきたので、12月のボーナスが入金されるのを待って、全てをこの海外送金でドルに変換した。このときの手数料節約とその後の円安を考慮すると約5万円を節約した計算になる。この金額は、今の私にとっては大きい。何しろ、節約分の約400ドルがあれば家族5人の食料費の2週間分くらいがまかなえてしまうのである。


 

 これを読んでいる皆さんは「何を細かい事いっているんだ」と思われるかもしれない。しかし、考えて欲しい。ただ、自分のお金を右から左へ動かすだけでも、為替(その背景の株式市場や国際情勢も含めて)や金融システムで何万円もの損得が出てしまうのである。ベンチャービジネスの資金は、株式公開や技術(場合によっては会社ごと)の売却で調達される。そのときの対価は大抵の場合は株式で行われる。したがって、極端な言い方をすれば、そのタイミング次第でビジネス自体が大成功になったり大失敗になったりすることだってある。ベンチャーによる社会の活性化を目指すのであれば、優秀なCFO(企業の中で財務に関する最高責任者)の存在は不可欠であるし、技術者、研究者といえども、そのセンスを磨いておかなければならないのである。

 

(つづく)

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