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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年03月11日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その6)

その6 「インターネットの恩恵」

 

 国土が広く多民族国家であるアメリカでは、インターネットの恩恵は日本の比ではない。理由の一つとして、インターネットを使わない従来の方法では、移動や身元確認などで多大な時間と労力を要するからである。ここに暮してみて、つくづくと感じることである。

 

 時間の例を少しあげる。住むアパートが決まって間も無い水曜日、郵便局に鍵を受け取るための手続きに行った。郵便箱は道路横やアパートの敷地内公共部分に設置されているが、チェック(小切手)の類まで普通に郵便で送るので郵便箱のセキュリティは重要で、管理は郵便局が行っているのである。パスポートや賃貸契約書の写しで身元確認をすると3日後に鍵を取りに来るように言われた。

 

 3日後の土曜日に鍵を受け取りに行った。(郵便局も銀行も土曜日は半日営業である。)係員に用件を告げると手続きは終了していないという。「3日後に取りに来るように言われたんです。」と言うと、「3営業日(ビジネスディ)でしょう?月曜から金曜までですよ。」という返事である。「わかった。月曜日に取りにくれば良いんですね。」と訊ねると、「いいえ、火曜日です。」という答えだった。どうやら、3日後とは、木、金、月と中3営業日が必要ということのようだった。同様に、水曜に銀行口座を開いて「チェックブックは7日後に郵便で手元に届きます」といわれたら、ちゃんと(?)翌々週の月曜日に届いた(注1)。

 

 万事がこんな調子である。例えば、電話をひいて2,3日後、日本への長距離電話の割引プログラムを使いたいのでAT&Tに電話した。すると、「パシフィックベルからは長距離通話がAT&Tであるという通知がまだ来ていないので、手続きに2週間ほどかかります」と言われた(長距離電話会社は別で電話開設時に選択するシステムになっている)。構わないから手続きするよう依頼すると、その日から2週間後の日付の郵便が1ヶ月後に来たが、なんと「現在手続き中」という内容だった(注2)。

 


 これらは、時間に関してのんびりしているというよりは、巨大な国ゆえのことなのだろう。実際、都市部に住んでいるのに、気に入った本を探すにしても、不意に腕時計の電池が切れてしまったときでも、2,3件の店を回ったりするのに、不慣れなせいもあって半日から1日がかりである。地図には通り名だけで番地の表示が無いので広いエリアを探す必要があるのと、最寄りの数件にあたりをつけて回るのに、それぞれが車で30分くらい離れているというのが「ざら」だからである。

 


 これらのすべてがインターネットで解決できるとは言わないが、いくつかを比較検討し、IDはクレジットカード番号ででき、ワンクリックで手続きが完了するというのは得がたい魅力である。この国で、ITに関して関心と評価が高いのは、市場拡大が著しく莫大なドルを産み出すからという理由だけではないように思う。仕事や生活が変わるという実感としての期待感があるのではないか。(IT革命という言葉に乗り遅れまいということを理由として奔走する日本とはまた別のような気がする。)

 


 ロサンゼルスでベンチャー企業のインキュベータを経営する鶴亀彰氏(注3)を訪れたときに、次の興味深い話を教えてもらった。今までコネのない人には成功は極めて狭い門であった映画や音楽制作の世界で、コネや実績のあるなしにかかわらず、世界中のクリエーター達が自分の作品を直接発表し、同時に認められるための登竜門として機能するよう考えられたサイトがある。一つは、映画の分野で運営されているハリウッドにある米国のベンチャーでアイフィルムと言う会社のサイト(http://www.ifilm.com)。もう一つは、音楽の分野で運営されているサイバー・コネクションという会社のサイト(http://www.liveblitz.com)である。

 


 サイバー・コネクションは、日本の興銀(現在のみずほグループ)をスピンアウトしてロサンゼルスと東京で創業した松田裕視さんという人の会社だそうである。サイトには、ただで自由に作品を載せるでき、見る人も自由にただで作品を楽しむことが出来る。そして人気の度合いがランキングされるのである。面白いのは、これがプレマーケティングとなって制作会社や資本家が優秀な作品あるいはクリエーターに投資しやすくなり、作品がビジネスとしてスタートした暁には、いわば成功仲介料としてサイトを運営する会社に報酬が入ると言う仕組みである。鶴亀氏の言葉を借りれば、インターネットが一部の閉鎖された特権を開放しチャンスをもたらすと言う意味で、社会をより平等に変化させていくということの好例である(注4)。

 


 アメリカでは徹底した自由主義の基礎として、知る権利の保障が重要視される。ニュースで、森内閣に対する不信任の動きが、否決の日を境にあっという間に事態が収拾し、国民の関与しないところで組閣が決まってしまうのを見ていると、逆にアメリカ大統領選のどたばたの方が少しはマシな気がしてくるのは変であろうか。アメリカのように、何でも個人の責任に負わせてしまう社会もしんどいが、積極的な公開と機会の均等(結果平等ではなくチャンスが与えられていると言う意味での平等)は、今日の閉塞した日本にとって学ぶべき点が多いように思う。(注5)

 

(つづく)

 


城戸の脚注

 

1)小野さんのケースとちょっと違いますけどね、私は学生の頃ニューヨークに住んでたんですよ。電気屋でテレビを買ったら、翌日に届けるというんです。当日学校を休んで家で待っても届かず、電話すると、翌日届けるという。その翌日も、学校休んで待ってたけど届かなくて、電話すると翌日届けるという。その翌日にも届かなくて、結局届いたのは4日後でした。欧米で嫌われてる・・・系の店で、以来その手の店は敬遠するようになりましたね。

 

2)小野さんもどこかで書かれてたけど、向こうで電話引くのは冷や汗もんですよね。この私も、電話で電話局に電話して(?)、もちろん言いたいことは前もって英作してから、しかも辞書片手でね。20分ぐらいかかったでしょうか。冷や汗垂れまくりでしたね。あれがアメリカ生活第一の関門でしょうか。

 

3)何度見てもお目でたい名前ですよねえ。私の友人で剣持鶴子という女性がいますが、この人と結婚すると、鶴亀鶴子になりますから絶対幸せになりますよねえ。

 

4)ほんと、インターネットはいいですよね。私のホームページなんぞ、小野さんの文を除けばオールバカ文で、ネットがなければ世の民衆の目に届くことはないんですからねえ。

 

5)ホント、多すぎるよね。小野さんもこの数ヶ月でずいぶん素直になったてきたなア。

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