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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年02月06日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その4)

その4 「IDの国」

 

 日本では、慣習として「ハンコ」ひとつで足りてしまうためか、日本国籍を持ち保護されているためか、ID、すなわち身分証明ということを殆ど意識することはなかった。レンタルビデオのときに免許証の提示を求められるくらいだろうか。ところが、こうやって国外に出ると常にIDというものを意識させられる。アメリカは人種のるつぼである。当然のことながら何に対してもIDを求められることになる。

 


 IDの最初はソーシャルセキュリティナンバー(SSN)である。私はきちんとした予備知識も持たなかったので、社会保障(日本の感覚では失業補償に近い?)番号なんていうのはアメリカで労働を予定していないのだから関係無いと思っていた。ところが、アパートや車を借りるにも、銀行口座を開くにも全てに必要といわれる。そこで、到着後さっそくSSNオフィスに行き申請をすることにした。滞在したホテルに比較的近い住宅地の中にあるオフィスに行くと、待合所らしき長いすが並んだ部屋の壁に申請書入れがあった。辞書をひきながら読んでみると、そう難しくはなさそうだった。間違えないように丁寧に記入し、applicationと書かれたカウンター前にできている列に並んだ。

 


 シリコンバレーには世界中から人がぞくぞくと集まっているとは聞いていたが、色々な人種の人で長蛇の列になっていた。やっと自分の前の番に来た。気になるので前の人の手続きがどのように行われるのかをそれとなく伺った。すると、受付をしている若い女性が何事か厳しく指摘している。その女性は、連邦政府職員ということになるのだろうか。結構、口調がきびしい。結局、私の前の人は受付けてもらえず、再度列の最後尾につくように指示された。私は、にわかに緊張してパスポートとビザのピンクレターと申請書を差し出した。

 


 申請書を一瞥すると、その職員は両親記入欄に記入が無いといった。その欄は「未成年者のみ記入」となっていたのにと思いながらも逆らって前の人の二の舞になってはいけないと素直に記入した。(なお、後で記入要領を確認すると両親のSSNの記入は未成年者のみとなっていた。同じ欄内に名前の記入欄があったので私の勘違いであった。)すると、今度は名前が間違っていると言われた。何で私の親の名前がわかるんだ?と思い「アイム ナット シュア(言っている意味が良くわかりませんが)」というと、両親の名前が同じはずがないと言われた。「パアドゥン?(はあ?)」というと、私のような外国人に慣れているのか、説明をしてくれるが言葉が早くなってきて良くわからない。「single」「maiden」という単語が出てきてやっと分かった。「アイ ハフタ フィル イン マイ マザーズ ネーム ビフォー マリッド?」結婚前の母の名前を書かなくてはならないのですか?と言いたかったのだが正しい英語かどうかも分からないまま、こう訊ねると、やっとそうだといってくれた。

 


 こうして、どうやら無事手続きをしてくれたのだが、父親を戸籍筆頭に法制度が出来ている日本の感覚では母親の結婚前の姓を求められるなど思いもよらなかった。この国では婚姻によらない出産も多いからであろうか?感覚の違いなのであろうか?理由はわからないが、銀行口座開設の時も母親の婚前の名前は身元保証として聞かれたが父親の名前は一切聞かれなかった。

 


 こうして、この後アパートを借り、車を借りることになるのだが、その都度にIDを求められることのなる。アパートや銀行や車なら、まだ理解の範囲内だが、住所が決まって、電話を引くときや郵便物を受け取るための郵便箱の鍵まで写真入りの身分証明が必要となる(郵便箱は道路横やアパートの敷地内公共部分に設置されていて、その管理管轄は郵便局が行っている。)。大抵はパスポート、免許証、クレジットカード(あらかじめ日本で写真付きのを作っておいたが大正解であった)を提示するのであるが、慣れないため失敗続きであった。(つづく)

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