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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2001年01月15日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その3)

その3 「シリコンバレーの不動産事情2」

 

 前回に引き続いて不動産事情について少し触れることにする。到着後10日でアパートに引っ越したのだが、日本で想像していた以上に家賃は高かった。前回も書いたように、ここではアパートのレンタル期間は最低が6ヶ月からとなっていることが多い。そこで到着早々に決めたわけだが、ここでは30日間に満たない最初の月は1月にカウントしないらしい。この後たびたび経験するのだが、日本とは時間の数え方が違うのである。

 


 6ヶ月未満のレンタルは家賃に300ドル上乗せになるという。上乗せ後の家賃はちょうど日本円で30万円くらいである。ところが、日本企業からの駐在員ように住居費が実費で支給されるわけではないので予算オーバーである旨を伝えると、その場で、同行してくれた不動産紹介業者が上乗せ分の3分の2を負担してくれる(業者への報酬から相当額を差し引く)ことを申し出てくれたのである。

 


 そのときは、随分親切な不動産紹介業者だと思った。実際、こちらの事情を察してくれたということはあるだろう。しかし、良く考えてみると、予算の制約がある私の希望に合う物件が見つかる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。業者にとって、いたずらに手間と時間をかけて物件が見つからず無報酬となってしまうくらいであれば、利益を圧縮してもまとめてしまった方が遥かに合理的である。これを瞬時に判断して決めてしまうあたりがシリコンバレー流なのであろうか。

 


 住むことに決めたアパートは、ベッドルームが2つで日本の感覚では十分に広く、新しくはないが綺麗である。3階建ての棟が20以上あり、8百世帯以上が入居している。インド人のエンジニアが多い(ちなみに、シリコンバレーではインド人もビックリするほどインド人が多い)。敷地内にテニスコートが2面、プールが3つ(もっとも季節的に寒くて入れないが)、ビーチバレーコートが1面、幼児用遊具や人工の池まである。一見しては豪華であり喜んで入居を決めたのであるが、住んでみると意外と安普請である。

 


 壁や天井は薄く音が響くし、塗り方の仕上げも粗い。入居時に窓や取っ手などの不具合を確認し修理を頼んでおいたが、業者の仕事振りは極めて大雑把である。日本では漆喰の仕上がりひとつにうるさいものだが、ここでは住む人はあまりこだわらないのであろうか。

 


 典型例をふたつ。入居して2日目にしてトイレでぼこぼこと音がするようになった。流れも気のせいか悪いような気がする。翌朝、用を足してふと窓の外に目をやると庭から水が噴出している。どうも、トイレットペーパーとおぼしき紙もいっしょに流れ出している。明らかに詰まった下水が溢れ出して寝室の窓の下に大きな水溜りを作っているのである。真っ青になってリーシングオフィスに駆け込んだ。「すぐに来てくれ」という私の訴えに、担当者は慌てた様子も無く「10分後に行くから」という返事であった。様子を確認しに来ても「業者を呼ぶから」と言ってさっさと帰ってしまった。こっちは、トイレが何時間も使えないのではないかと気が気で無かったが、30分もして業者が来ると配管を長いたわしのような物でごしごし洗って、あっというまに直してしまった。

 


 後でわかったことだが、こっちでは台所の生ごみをディスポーザーというもので粉砕して一緒に下水に流してしまうため頻繁に詰まるようである。日本の感覚では、集合住宅で管を共有する何世帯かに支障が出て「よそに迷惑がかかる」と気を使うところであるが、慣れているのか気にしないようである。

 


 もう一つの例。この地区では、防犯の意味でゲートがロックされていて住民にだけ手渡されているリモコン(ゲートクリッカーというらしい)であける装置がついているのが主流である。しかし、この装置は頻繁に壊れていたり、あるいはアパート管理者による入力設定がうまく行かなくて使えないことが多い。実際、私も入居初日の夜に担当者の入力設定ミスで締め出しをくらってしまった。アクシデントが続くと開けっ放しになっていることも多く、意味がないように思うのだが、それでもあまり気にする人はいないようである。(ようやく1ヶ月以上たった最近になって、設定確認がうまくいったらしく順調である。防犯業者が代わったらしい。このへんの事情説明だけは逐次住民にレターが届けられるなどしっかりしている。)

 


 見掛けは立派なのだが、どうも信頼性にかけるということは実に多い。必要最小限の家電製品を買い揃えたが4回に1回くらいは壊れている。毎週のように返品・交換に行くのだが、その店でその日だけで同じ様な返品がすでに4~5件あったということもある。

 


 それにしても、この地域の住宅問題は深刻である。今日の夕方のニュースでも増えつづけるホームレスや逼迫する住宅供給について報じていた。街を走っての感じでは物件がないのではない。いたるところで「入居者募集」の看板が見うけられるし、あちこちで新築が行われている。価格が急騰しすぎているのである。

 


 ニュースによると、ベイエリアの中間クラスの世帯所得は5万ドルから7万5千ドルへと跳ね上がり、東海岸のそれの1.5倍にもなってしまったという。それに伴って、一般的な住宅価格もはね上がり50万ドルともいう。(3年前に来たときに、全米での住宅の平均価格は25万ドルであるのに対し、ベイエリアは平均35万ドルと全米でもっとも高い地区と聞いた記憶がある。さらに跳ね上がったということであろうか。)住宅高騰に業を煮やしたサンカルロス市長が辞職してサクラメント地域に引越すことを決めたという。住宅高騰に教職員、消防署員、警察官の雇用にさえ影響が出ている。

 


 折りしも、全米だけでなく世界を騒がせている大統領選挙の開票トラブルが連日ニュースを騒がせている。先進的ではあるが信頼性や安定性に欠いたり、経済が快調なのに暮せないという矛盾を抱えるという、輝かしく見えるこの地域の意外にも脆い側面を垣間見たような気がした。(つづく)

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