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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2000年09月13日
ちょっと不思議な話(その1)

 いゃー、しかしこの夏は暑かったですなー。
といいましても、私は8月一ヶ月、不愉快な日本を脱出してカリフォルニアの青い空の下で快適な日々を送っていたんですがね。へっへっへっ。

 昔は夏といいますと怪談話を聞いて涼しくなったもんですが、最近はあんまり聞くことなくなりましたよねえ。そこで、最近私が聞いたとっておきの不思議な話を紹介しましょう。怖がりの人、パスしてね。夜トイレに行けなくなるかもよ。

 ある電機メーカーに勤める杉本年男さん(仮名40歳、外見上は私より年上)は、私と出身大学が同じで、有機ELの研究者でもあります。豪快そのもので彼の笑い声は200メートル先まで響き渡る。めったに怒らないが、ウチの研究室におられたころは、一見こわい人に見える風ぼうから、城戸は怒らせても杉本は怒らせるなと、恐れられ、したわれてもおりました。また、米沢の寒い冬の夜には研究室のガスストーブでスルメを焼いて、日本酒をぐびぐび飲んでいたという純日本人的豪傑でもあります。ですから、幽霊を信じたり、お化けを怖がったりするタイプとはかけ離れている、ということをまず知っておいてください。

 この7月に杉本さんにちょっと聞きたいことがあって、会社に電話をしたところ本人がいなくて、休暇を取ってます、とのこと。このクソ忙しいときによく休暇が取れるよなア。などと、標準語でぶつぶついいながらその時は電話を切ったんですよ。数日後、講演会で一緒になったとき、彼がこう切り出しました。

「実は引っ越しましてねー」
そうなんですよ。この人、前から海の見えるところに住みたいなどと、ガラにもないことを言ってたんですけど、

「ほほー、とうとう引っ越ししましたか。海の見えるところですね?」
と尋ねると。

「いや、違うんですよ。出たんですよ。」
と、杉本さん。

「ほほー、でましたか。・・・なにが?」
と、私が聞くと。

「魑魅魍魎が。」
(これはチミモウリョウと読みます。)

「ほほー、でましたか。」
と落ち着いた調子で私。こう見えても科学者の端くれですからね。
 実は、UFOや幽霊話は昔から大好きでね。そこで、根掘り葉掘りこの不思議な話のてんまつを聞きました。

 杉本さん御夫妻がそのマンションを購入したのは、かれこれ13年前。建って3年ほど経っていたとのこと。ことの始まりは、今から1年ほど前に、お隣さんが引っ越して出ていかれたころにさかのぼります。そのお隣さん、引っ越されて一週間ほどしたある日、挨拶に来られ、杉本さんの奥さんに打ち明けました。

「実はおかしなものが出ましてねー」
ということで、お隣さんは夜な夜な出てくる幽霊、というかゴースト、というか、お化けに悩まされて引っ越すとのこと。その時に、
「実はうちにもたまに出るんですよ~。」
という話しになって盛り上がったらしい。

 杉本家の怪奇現象は引っ越して3年ぐらい経ってから起こり始めました。ある夜、奥さんがスヤスヤ寝ているとなんだか足を撫でられる感じがする。けど、どうもいつものご主人のタッチと違うと目を開けると、足元に黒い雲のようなものがフワフワと浮かんでいたそうです。その時はキャッとい言って隣で寝ていた杉本さんを起こしたとか。そいつは、それ以降、ときどき腕をスーッとなでたり、ギュッと掴んだり、足を引っ張ったりと、夜中にイタズラしたそうです。ちょっと、スケベーなヤツですよね。

 隣で寝ている奥さんがこんなイタズラにあって悩んでいるのに、豪傑杉本さんはぜーんぜんそんな気配も感じず、何にも見ず、何も聞かず、何にも触られず、たまに寝言なんぞを言いながら、そんなもんホントにいるのかという感じで、グースカ寝ていたことでした。
 ところが、そんな杉本さんも夜中に目が覚めることがあって、丑三つ時のシーンと静まり返った静寂の中に響き渡る「コラッ」という声にときどき驚かされたそうです。実は、これは奥さんの声で、目を開けて隣を見ると、奥さんが上半身起こして天井をにらんでいるそうで。
「また出たの?」
と聞くと
「また出た。」
との返事。
 なんでも、レイの黒いモヤモヤに「コラッ」と怒ると、天井のすき間とか押し入れのすき間なんかに、シューッと入って逃げていくんだそうな。その黒いモヤモヤが「となりのトトロ」に出てくる「まっくろくろすけ」にソックリだそうで、奥さんいわく、“宮崎駿もこれを見たに違いない。”だそうです。

 このように、これまで10年ほどそのクロスケと仲良く(?)やって来たのですが、世紀の変わり目なのか、この半年ほどかなり活発に活動するようになり、奥さんの体の調子が悪くなってきたそうな。  そこで、まず、京都の八坂神社にクロスケのことで相談に行くと、あちらではこの種のお払いはやってないとのことで、京大横の吉田神社を紹介してくれたそうです。吉田神社では親切にそのマンションの住所から、その土地の歴史的背景を調べてくれました。そして、そこがある城の城跡で、ある有名な一族郎党が最後に皆殺しにあったところだそうで、これぐらい霊的に呪われてるところは日本にも数ヶ所しかないほどのスンゴイところだと言うことがわかりました。実際に、杉本さん御夫妻がマンションに越したあとで、そのマンション建設中にかなりの人骨が出たことを知らされたそうです。

 呪われ度が国内トップクラスのこの手の場所では、お払いをすると反対に祈とう師が、取り憑かれておかしくなるらしくて、結局お払いはしてもらえなくてね。そこで、せめてもと奥さんは部屋の天井や壁に御札や般若心経をぺたぺた貼り付けておいたそうですよ。けど、その程度では、焼け石に水、クロスケに御札、全然効果がなくて、結局今回の引っ越しとなったわけです。

 御札に関しておもしろい話がありましてね。杉本さんの一階上には夫婦と子供一人の三人家族が住んでおられて、同年齢の奥さんとは仲が良くて。昼間遊びに来たとき、たまたま壁に貼られている御札を見て、ひとこと。
「あれー、マユミちゃんちにも出るのー。ウチなんか四人家族だもーん。」
こわすぎる~。なんちゅうマンションや。
その時はクロスケのことで盛り上がったそうです。

 引越が決まって、引っ越しまでの一週間は奥さんはホテル住まい。そりゃそうでしょう。よく10年間ガマンしたもんです。一方の杉本さんは相変わらず何も感じず、触られず、余裕しゃくしゃくでそのマンションで寝泊まりし、引っ越しの準備をしたそうです。ところが、引っ越しの前夜、静まり返ったその部屋でパッキングをしていると、夜も白々明けだしたころ、いきなり、

「ジーーーーーーーーー」

という音が、部屋のどこかで鳴り始めたんですよ。
 驚いた杉本さん、なんだなんだと部屋を見渡して、カメラが音源であることを突き止めた。フィルム巻き取りのモーターの音だったんですね。けど、カメラを取り上げて、カバーを外すとそこにはフィルムはなくて、モーターだけが鳴り続けたとか。いくら足をさわっても、ツネッても感じない霊的不感症の杉本さんに対して、クロスケが最後にその存在を知ってもらおうと、あがいたんでしょうか。

 

後日談:
 新居に越された杉本さん御夫妻。奥さんは最初の2~3日は少し足元がモゾモゾした。とのことですが、今は全くイタズラもなく、日当たりのいい部屋は快適そのものだそうです。
 そろそろ2ヶ月になりますが、不思議なことに、最近では奥さんのお顔が目に見えてほっそりして、シュッとして御主人が見違えるほど、別人のように美人になられたとか。いやいや、別にこれまで美人じゃなかったというわけじゃなくて、より美人になられたということですよ。なんでも、霊的なものに取り憑かれたりすると、顔や体がむくんだりすることもあるとかで、奥さんの場合は顔のムクミがとれて以前のように美人になられらということでしょうか。めでたし、めでたし。

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