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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2000年12月21日
【転載】 小野さんのカリフォルニア紀行(その2)

その2 「シリコンバレーの不動産事情」

 

 安全に生活する基本は住宅である。私にとって、渡米前の日本での最大の課題は、安全な住宅の確保であった。しかし、広大な土地を有するアメリカにあって、シリコンバレーに限っては深刻な住宅難である。コンピュータやインターネットビジネスという「金鉱」に人が集まる第2のゴールドラッシュに住宅供給が追いつかないのである。

 


 渡米前4ヶ月前くらいからインターネットでアパート探しを始めた。海外の不動産物件を扱ったサイトもたくさんあって、その気になればかなりの物件を探すことが出来る。しかし、検索サービスを受けるには会費を要するものも多く、また、物件情報が特有の略語で表示されていることが多いことから、不動産事情に暗い者としては独力で物件探しをするのは少し荷が重かった。日本語で物件探しから契約締結のアシストまでをサービスする業者のサイトを2件見つけたので、そこに物件探しを依頼してみた。結果は、空室率が0.3%ということで、3ヶ月間探してもらったが希望する価格と条件の賃貸住宅を見つけることが出来なかった。

 


 とりあえず手頃な価格のモーテルを10日ほど確保して現地で住宅探しをすることにした。サンフランシスコやロサンゼルス近郊で会社経営をしている知り合いや、車のディーラーや床屋のおばさんなど誰に聞いても、最近は住宅難で家賃が信じられないくらい高いと言う。車で近所を走ってみると、そこかしこで巨大なアパート(とおぼしきもの)が建設されている。どうも、バブル時の東京のような状況になっている感じがした(注1)。

 


 その後に分かったことだが、この地のバブル状況は大変なもののようである。象徴的な事例を二つ。シリコンバレーにあるサンタクララカウンティ(郡)で最大の邸宅というのがスタンフォード近くのロスアルトスにある1万8千平方フィートの敷地を有するGM役員所有のものだそうである。この邸宅、3年前は6百万ドルだったものが現在は1千5百万ドルの値がついているという。3年で2.5倍である。同じくスタンフォード大学の近くに有名なガレージがある。スタンフォード大学の学生であったヒューレットとパッカードが、たった5百ドルあまりで借りてベンチャーを始めたヒューレットパッカード社の前身となったガレージである。このガレージはベンチャービジネスの歴史の象徴としてカウンティの指定を受けているらしいが、最近、この車1台分のガレージをヒューレットパッカード社が何と百7十万ドルで購入したということで世界一高価なガレージと話題になっている。(余談だが、このガレージは金森山形県副知事が当時商工労働観光部長時代であった94年に偶然訪問し、これが県の産業科学館建設構想のきっかけとなったものである。)

 


 渡米当初は、しばらくメールが使えない状況にあったので、たまたま電話番号をひかえていた日本語が使える不動産業者に電話をして直接物件探しを依頼することにした。滞在期間をずっとモーテルで過ごすことも考えたが、一晩に何度も子供がベッドから落下するし、何よりも胃袋がホテルの朝食や外食に悲鳴を上げていた。

 


 不動産業者の説明によると、売り手市場のため個人所有が多い一軒家やタウンハウス(ガレージ付の長屋のようなもの)コンドミニアム(日本の分譲マンションのようなもの)は最低1年契約リースしか物件が出てこない。賃貸アパートも最低6ヶ月からというところが多く、期間が短くなっても6ヶ月分の家賃を支払う必要が出てくる可能性がある。滞在期間自体が6ヶ月しかないのであれば、住んでいないのに家賃を支払う期間をできるだけ作らないように、可能な限り早く物件を見つけ引越ししたほうが得ではないかということであった。

 


 そこで、安全性が確保できて、買い物などの利便性が良く、かつ、ここ数ヶ月でその業者がみた最安値の物件を見て回ることにした。2ベッドルームタイプだが広さは十分あり、日系と中国系のスーパーと、西海岸地区では店舗数が少ないといわれるシティバンクがすぐ近くという立地条件が良い物件であったので、すぐにリーシングオフィスに行き申し込みをした。身元(ID)確認や家族構成、年収など記入するわけだが、同行した不動産業者に聞くとこれをもとにクレジット調査をして貸すかどうか決めるのだという。そこで、年収をどのくらいに書くと良いのかと訊ねると、家賃が収入の一定以下でなければ安定して家賃を支払えないといわれている料率があるという。そこで逆算してみると約9万ドル必要となる。日本円に換算すると年収1千万円である。ここでは最低そのくらいの収入が無いと暮らすことが出来ないということである。もちろん、そんな収入はないのであるが、どうせ日本まで所得調査することは無いだろうとたかをくくって9万ドルと書きこんだ(注2)。

 


 結果、無事3日後に引っ越すことになった。この地域での賃貸物件について、必ずしも十分な情報を集めて決めたわけではないが正しい選択であったと思っている。時間をかければ、より有利な条件の物件も見つかったかもしれないが、10月はトレーディングショーなど催し物が多く、大勢のビジネスマンが集まってくる。滞在したモーテルを含め、引越ししてすぐに10月はどのモーテルも「NO VACANCY(空き無し)」の看板が目立っていた。とにかく、ここで到着後10日間で住むところを確保できたのは幸運であった。(つづく)

 

 


注釈:


(1)シリコンバレーでは公務員のホームレスが出るくらい、住宅事情は悪化しています。これまじ。

 

(2)そう、アメリカではハッタリよ、ハッタリ。正直者は損するよ。

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