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城戸・笹部・千葉研究室

城戸の独り言

2003年02月01日
液晶屋さんのドキドキ

 ここで言う液晶屋さんとは、液晶ディスプレイの研究開発に従事する人たちのことです。この人たち、ここのところ、有機ELが技術的に液晶を脅かす存在に成長し、多方面から注目されて、内心穏やかではありません。私の知人の花村さん(仮名)もそんな液晶屋さんの一人。これまで、液晶に半生を捧げた身としては面白くないらしい。これまで、ちやほやされてた美人女優が年取っちゃって、若手のピチピチしたのに主役の座を奪われたようにね。

 

 今日はそんな花村さんの話です。まず、花村さんをご紹介しますと、花村さんは国内の大手デジタル時計メーカー(?)のヤシオ(仮名)で液晶の研究をされてたのだけど、(たぶん)高給に釣られ十数年前から韓国の大手電機メーカーであるヨンセイ電子(仮名)で液晶開発に携わられてます。確か今は顧問でしたよね。

 

 ヨンセイ電子では、液晶では世界制覇したのだけれど、有機ELでは出遅れてしまい、その兄弟会社であるヨンセイ電管の方が、有機ELで有名になってしまいました。こちらは、液晶以外のブラウン管や蛍光表示管、プラズマディスプレイなどの自発光型ディスプレイを事業化してきたのです。そこが、有機ELを手がけるのは極自然で、自発光型ディスプレイの画質の高さをよく知ってるわけですから、有機ELが究極のディスプレイであることもいち早く察していたのです。けど、理由はともあれヨンセイ電子としては、弟の方が兄貴より世間から注目されてるなんて面白くないのです、たぶ 
ん。特に韓国のように上下関係の厳しいお国では、弟は兄を超えてはならないのです(ほんと?)。そこでヨンセイ電子では、遅ればせながら有機ELに手を出すかどうか、有機ELのポテンシャルについて顧問の人たちに調査するように命じたのです。

 

 そこで、焦ったのが花村さん、彼は無機半導体が専門で有機の「ゆ」の字もわかりません。亀の甲を見たらじん麻疹が出るタイプの人です。あなたの隣にもいるでしょう、こういう人。実は、花村さん、3年ほど前に研究室を訪ねてこられたので、有機ELの最新情報を差し上げました。その時は、まだヨンセイ電子では有機ELについて一切調査等を始めておらず、花村さんご本人の興味で来られたのです。研究室にあるディスプレイをお見せしたり、いつもの調子で有機ELの素晴らしさ、ポテンシャルの高さを説明し、ご本人も納得されて、有機ELを始めなければ…、なんて半分洗脳されてお帰りになりました。ところが、最近になって会社が有機ELに注目しだすと、有機のことがまったくわからない花村さんは、困っちゃて、有機ELの画質が素晴らしくて将来性を感じつつも、アンチ有機EL派として行動せざるを得なくなりました。だって、有機ELのこと聞かれても的確な指導ができなくっちゃ顧問失格だもんね。

 

 花村さんのアンチ有機ELキャンペーンは、1~2年前から過激になり、つい最近は、有機ELのみならず、プラズマやFEDなどの自発光型ディスプレイは全部ダメだとか言い始めました。その中でも有機ELは一番素性が悪くて、絶対モノにならないらしいです。最低、最悪らしいです。サイテ~ッてやつです。私としましてはせめてプラズマと同じくらいのレベルに格上げして欲しいんですけどね。ブラウン管については、一般の人たちはブラウン管の良さをすでに知ってるので、その技術の高さをしぶしぶ認めているフシがある。たぶんブラウン管が現時点で発展途上の技術であれば、彼の毒牙に掛かってケチョンケチョンに言われていたことでしょう。ウスラでかいとか、消費電力が大きいとかね。

 

 ディスプレイというものは、ブラウン管であれ、液晶であれ、それぞれ欠点を持っており、いまだにそれをだましだまし使いこなしているのが現状です。この技術はここが劣っているから実用化できない、とか言ってると、ブラウン管も液晶もここまで発展しなかったのです。歴史的に、他のディスプレイが無かったころ、ブラウン管がテレビというものを一般家庭に普及させる役割を果たしたし、液晶がノートパソコンを可能にしたのです。皆さんご存知のように、どちらのディスプレイも今から考えると出始めはそれはひどいディスプレイでしたよね。テレビなんて今と比べりゃ小さくって白黒で画面は湾曲してましたしね。STN液晶のついた日本語ワープロなんて、見ていて気持ち悪くなりましたもん。このような低品位ディスプレイでも結局それしかないから、みんな我慢して使って、その技術を高めて今の30インチを超える大型高精細フラットテレビ(ソニーのベガみたいな)や40インチを超えるTFTカラー液晶に発展してきたのです。たぶん、開発当初は、特に液晶なんて原理的、理論的ににカラーテレビには使えない、というのがディスプレイ業界では常識であったに違いないし、たぶんブラウン管テレビ屋さんからもケチョンケチョンに、ボロクソに、ウンコみたいに言われたはずです。そんな時代に、液晶開発に携われた方々は血のにじむような努力をされ、いまのカラー液晶を作り上げたのです(いまだに完ぺきじゃないけど…)。

 

 このような歴史的背景をよ~くご存知な花村さんなんだけど、いざ、自分が追われる立場になると、有機ELをクソミソに言うのです。特に、あまりにも画質がきれいだから(これは認めておられる)、癪にさわるんでしょう。きれいなシンデレラをイジメまくるブスな義理の意地悪ネエちゃんみたいなもんかな。

 

 花村さんには、久しぶりにお目にかかって、有機ELの最新生情報、裏情報、極秘情報をお話しましょうと、持ちかけているのだけれど、ご本人にはその気が無いらしい。どうも、私との直接対決は避けたいらしい。彼のもってる有機ELの知識は、展示会で見た、とか、説明員から聞いた、とか、誰かがこう言ってた、見たいな感じで、かなり上っ面だけでその辺のミーちゃん、ハーちゃんのレベルとかわりません。当研究室の所属する学部3年生よりも有機ELに関する知識は浅いでしょう。これは、彼が展開する無機半導体理論に基づく有機ELデバイスの評価を聞けばわかります。つまり、亀の甲がま~ったく、ぜ~んぜん、お分かりになってないんですよね。はっきりいって、無機半導体の理論なんて、そのまま有機デバイスには適用できませんよ。

 

 といっても、彼にとってはどんな理論を持ち出してでも、有機ELをチョーダメデバイスに仕立て上げ、ヨンセイ電子での有機ELの立場をおとしめる必要があるわけで、自分の立場を守ろうとされてる訳ですね。まあ、この人の助言をヨンセイの優秀な経営者がすんなり聞き入れるとは思えないし、もし、聞いてくれて有機ELに手を出さなければ、それはそれで日本の企業にとっては強敵が現れずに助かるわけですけど。あっ、そうか、花村さんは、韓国企業のために働いておられるけど、実は国粋主義者で日本企業を守ろうとしてこんなことしておられるんですか。

 

 まぁ、とにかく、有機ELはまだ完成された技術じゃないけど、有機EL屋はこの夢の究極の技術を完成させるべく日夜努力しており、特に最近では人と金がこの分野に集中的に投入され始めたので、著しい進展を見せています。花村さんの心配されてる寿命についても、3000カンデラで、半減が1万時間超えるようになってるしね。500カンデラなら、6万時間以上ですか。この1~2年以内に10万時間を超えるでしょうね。間違いなく。

 

 だから花村さん、今年のSIDででも一緒に飲みますか?有機ELの真の実力をいつでもお話しますよ。
何も知らずに、ドキドキ、ビクビクしてるよりいいんじゃないですか。連絡待ってます。

 

*ことばの説明*

 

液晶屋:
液晶ディスプレイの研究開発、製造に従事する技術者のこと。脳の一部がすでに液晶化してしまい、偏った考え方しかできず、液晶こそが最高のディスプレイ技術と信じ他のディスプレイを一切認めない人を「真性液晶屋」とよぶ。国内にかなり生息しており、近年、韓国や台湾にも生息範囲が拡大している。

 

プラズマ屋(本文には出てない):
プラズマディスプレイの研究開発、製造に従事する技術者のこと。脳の一部が空洞化し、放電してプラズマ状態になり過激な発言をする「真性プラズマ屋」は、まだ少ない。最近、液晶が大型化(50インチ試作段階)して縄張りを荒らし、焼き付きの問題を指摘され、売りまくっているもののドキドキ、ビクビク状態が続く。

 

有機EL屋:
有機ELディスプレイの研究開発、製造に従事する技術者のこと。脳全体が有機物でできているもっとも人間らしい技術者集団。脳が柔軟なので、発想が豊かなうえ、液晶屋やプラズマ屋の嫌がらせにも屈しない強じんさも合わせ持つ。携帯は有機EL搭載ドコモF504iを持ち、自家用車には有機EL搭載カーオーディオをつけて、毎朝、有機EL搭載のシェーバーでヒゲを剃る、とことん有機にこだわる「真性有機EL屋」が全国に増殖中。

 

無機EL屋(本文には出てない):
無機ELディスプレイの研究開発、製造に従事する技術者のこと。脳細胞の一部が硫化亜鉛などの無機物に変性し、かなり考え方が硬い「真性無機EL屋」は、極くわずか生息するだけで2000年より文部科学省により絶滅危惧種に指定された。いじめてはいけない。

 

FED(エフイーディー)屋(本文には出てない):
フィールドエミッションディスプレイの研究開発、製造に従事する技術者のこと。脳血管がカーボンナノチューブのように極細になり血行が悪く、正常な思考ができなくなっている「真性FED屋」は最近数が減りつつある。数年前は有機ELと並び次世代のフラットパネルディスプレイの最有力候補と注目されたが、当時の勢いはもはやなく、仲間集めに必死である。足を突っ込みすぎて抜けられなくなった可哀想なEFD屋も現れ始めた。サラ金地獄のような悲壮感漂うFED地獄。

 

ブラウン管屋:
ブラウン管テレビの研究開発、製造に従事する技術者のこと。国内では死滅した。ときおり化石が見つかる。

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